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ドイツの大学受験に“一発逆転”はない!? 始まりは小4 教育制度の土台にある考えとは

著者:中野 吉之伴

2種類の試験に分かれるアビトゥア 暗記だけでは通用しない内容

 ギムナジウムの詳細に関しては、また別の機会にお話ししましょう。今回はアビトゥアの試験について解説します。

 アビトゥアの試験は「筆記」と「口頭」の2種類。筆記は数学とドイツ語が必須で、他の言語などからあと1科目を選択します。口頭では自然科学(化学・物理・生物)と人文科学(政治・歴史・倫理・地理学)から5科目を選択。そして、1日1科目ずつ試験を受けます。

 筆記試験の時間は1科目4~5時間かかります。設問に合った答えを選ぶマークシート方式ではなく、与えられたテーマを元に論理的な記述を求める形式が多いです。問題とされるテーマをどのように理解しているのか詳細にまとめる必要があるため、学生にはそれぞれの科目に関する相当の専門知識と文章作成能力が求められます。

 口頭試験は自分が選んだテーマについてプレゼンテーションを行い、試験官からの数々の質問に答えていくという形式。筆記も口頭も「なぜそうなのか?」という点において自分の意見をしっかりとまとめられる論理的思考力がないとダメ。ギムナジウムでの授業も、そうした能力を身につけられるように構成されています。

 そのため、試験前に一夜漬けをして「一通り暗記をすれば何とかなる」ということができません。これがアビトゥアの特徴です。そういえば、ドイツでは「追い込み期」のような言葉を聞いたことがありませんね。

大学は「勉強したい人が行くところ」

 日頃からギムナジウムの授業についていき、定期的に行われるテストで必要最低限度の成績を残していくことが、最終的にアビトゥアの試験準備につながります。そのため、学校以外で塾に通ったりする子は少ない印象です。アビトゥアの試験を受ける学年に近づいてくると、苦手な教科を底上げするために家庭教師を頼むことはありますが。

 晴れてアビトゥアを取得すれば、希望する大学の希望する学部に入学が可能。ちなみにドイツの大学には偏差値によるレベル差はありません。それぞれの大学には、比較的受け入れ学籍数の多い学部や、医学部や法学部のように学籍数が非常に限られている学部もあります。その時に学部の選択基準となるのがアビトゥアの成績。日本でいう“成績オール5”くらいで大学入学資格を取得しないと、学籍数が限られている学部に入るのは難しいとされています。

 こうした教育システムの背景には「勉強したい人が行くところが大学」という社会的な考えが存在します。大学に行って将来を探すのではなく、将来像がある程度イメージできているからこそ大学に行って学ぶのです。

 そのため、ドイツの大学進学率はそこまで高くありません。「大学へ行く=将来安泰」なんていう図式がないわけですから。アビトゥアを取得しても、ギムナジウム卒業後はすぐに大学へ行かずに留学をしたり、企業研修を受けたり、アルバイトをしながら社会勉強をしたりと、それぞれが自分のタイミングで入学を決めることが多いようです。

 あと、「大学に入ってそれなりにやっていたら誰でも卒業できます」なんていうこともありません。単位をしっかり取っておかないと、大学からあっという間に除籍扱い。それぞれの試験の難易度も高いため、卒業率も高くないのがドイツの大学の常識です。

 こうしたドイツの大学制度には、「学ぶ」という観点からするとメリットも多いのですが、日本の大学受験であるような「一発逆転」はないという現実があります。「17歳になって一念発起して試験勉強に明け暮れて難関大学へ」みたいなストーリーがそもそもありえない社会構造になっているわけですから。

 どちらが良いのかは、それこそ個人的な好みや相性があるのかもしれません。いずれにしても、ドイツにおける大学には「学ぶことが人生における確かな刺激となり、人としてさらに成熟できる環境」という考えが前提にあるのではないでしょうか。

(中野 吉之伴)

中野 吉之伴(なかの・きちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。同国での指導歴は20年以上。「SCフライブルク」U-15(15歳以下)チームで研修を積み、さまざまな年代とカテゴリーで監督を務める。執筆では現場経験を生かした論理的分析を得意とし、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「世界王者ドイツの育成メソッドに学ぶ サッカー年代別トレーニングの教科書」(カンゼン刊)、「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする 自主性・向上心・思いやりを育み、子どもが伸びるメソッド」(ナツメ社刊)がある。ウェブマガジン「フッスバルラボ」主筆・運営。

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