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スピードスケート王国オランダ 圧倒的選手層はなぜ生まれた? 現地で見た強さの秘訣

著者:中田 徹

サッカー界の英雄も虜に オランダにおけるスケートの存在感

厳寒の中でも湖でスケートを楽しむオランダの人たち【写真:中田徹】
厳寒の中でも湖でスケートを楽しむオランダの人たち【写真:中田徹】

 オランダにおいて、スケートが持つ存在感の大きさを感じさせるエピソードは他にも。同国スピードスケート界の英雄スベン・クラマー選手が男子5000メートルで9位に終わり、同種目4連覇を逃した6日のことでした。

 その夜、クラマー選手の親友の一人で、サッカー元オランダ代表アリエン・ロッベンさんがテレビ番組「ストゥディオ北京」に出演。「僕は『エルフステーデントフト』を目指してトレーニングする。すでにクラマーと(エルベン・)ベンネマルス(かつての名スケート選手)の推薦をもらって、大会の会員になった」と表明したのです。

 エルフステーデントフトとは、オランダの北部フリースラント州11都市の運河をつなぐ、世界最長距離(約200キロ)のスケートマラソン大会のこと。運河が十分に凍らないといけないレースのため、1997年以来、長きに渡って開催されていません。それでも、毎年冬になると過去のレースが新聞などで紹介され続けています。

 1986年の大会には、現国王のウィレム=アレクサンダーが「WAファン・ブーレン」の仮名で出場し、国中が大騒ぎになったこともあったそうです。

 こうしたイベントが冬の風物詩になるように、オランダ人は凍った運河や湖でスケートをするのが大好き。ロッベンさんも「子どもの頃、フローニンゲン郊外にあるベドゥムの運河でスケートを楽しんだ」と回想しています。

“スケート王国オランダ”の契機は1961年 90年代にはプロチームも結成

ヤープ・エデン・スケート場【写真:中田徹】
ヤープ・エデン・スケート場【写真:中田徹】

 ロッベンさんが出演した「ストゥディオ北京」は五輪期間中、首都アムステルダムにある「ヤープ・エデン・スケート場」のクラブハウスから放映されました。オランダ人がスケートに興じる姿を見るため私も日曜の朝、同所に行ってみたのですが、すでにチケットは売り切れていて中に入ることができませんでした。

 ウェブサイトでチェックすると、チケットはその先1週間も早朝や夜を除いてほぼ売り切れ状態。オランダ人のスケート熱の高さを改めて感じました。

 スケート場の名前にもなっている「ヤープ・エデン」とは、19世紀末に活躍したオランダ人スケート選手。かつてのスピードスケート界はノルウェー、ロシア、フィンランドといった天然のスケート環境に恵まれた国が強く、オランダ人選手は冬になるとノルウェーに行って練習していたそうです。

 1960年にノルウェーへ引っ越したヘンク・ファン・デル・フリフト選手が、61年のワールドカップで優勝すると、オランダ国内で「人工スケート場を作って競技力を高めよう」という気運の高まりが。同年にヤープ・エデン・スケート場が開場しました。

 60年代後半には、ケース・フェルケルク選手というスターの誕生とテレビの普及が重なり、オランダでスケートブームが到来。他のスポーツでも見られる大観衆がオレンジ色の服で着飾って、歌を歌って応援する風景も、この時期に生まれたといいます。

 90年代になると“プロチーム結成”の動きが。1995年、当時スターだったリンチェ・リツマ選手が、ボディケアブランドの「サネックス」とともにチームを結成。これを機に、プロスケートチームがオランダスケート界を支えるようになりました。

 プロスケートチームの発足は、レベルの高い選手同士を切磋琢磨させただけでなく、他チームとのライバル心も高めました。こうして競技力と商業価値が向上。さらに、それが練習環境の改善や指導者育成にもつながる相乗効果を生みました。1998年長野大会以降のメダル数増加は偶然ではないのです。

「オランダ人にはスケートの遺伝子が流れている」と、この国の人々はいいます。温暖化で運河や湖が凍る機会は減りました。それでも、今もオランダ人は狭い国土の11か所に広がる屋内スケート場、冬になると街の中やショッピングモールに作られる仮設スケート場でスケートを楽しんでいます。

(中田 徹)

中田 徹(なかた・とおる)

1998年に日本企業の駐在員としてオランダへ赴任。2002年に退職し、フリーランスのスポーツライターとして活動を始める。ライフワークのサッカーを追って欧州各地を取材してきたが、現在はコロナ禍のためオランダとベルギーに活動地域を絞っている。オランダ・スポーツプレス協会で唯一人の日本人メンバー。

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