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フランス人が花を「生活必需品」という理由 生け花文化のある日本との違いとは

著者:小川 由紀子

「五感に訴えるものが好き」という国民性

 では、他と比べてフランス人がとりわけお花好きなのでしょうか? お花好きという点では、生け花という古来の文化を持つ日本人も負けてはいないと思います。ただ、「日常生活への取り入れ方」や「お花との付き合い方」という部分に違いがある気がします。

 フランスでショップの生け込みやアレンジメントの指導をしているお花のエキスパート、本林史子さん(fumikofleurs)が面白い指摘をしていました。

「たとえば、日本のお花屋さんではお花を1本ずつ売っていることが多く、買い慣れていないと『どう組み合わせようか』『うまく生けられるかな』と悩んでしまいます。扱い方にしても、『茎はお水に浸けて切るのだっけ?』と迷う感じで、『生け花』という文化があるだけに、お花を飾ることに対するハードルが少し高くなっているのかな、という気がします」

 そういえば、フランスではお花はだいたい10本くらいの束で売られているので、そのまま買って帰り花瓶かコップにバサッと挿すだけ。そんな気楽さは、確かにお花を手軽に生活へ取り込めるポイントになりそうです。

 それから、何と言ってもフランス人は「五感に訴えるものが好き」な人たち。

 フランスで盛んな産業といわれてパッと思いつくのは、食やファッションといった味覚や視覚に訴えるジャンル。お花も香りや色でそうした感覚を刺激してくれます。ロックダウンでお花が買えなかった時に耳にしたのも「色に飢えた」というフレーズでした。

「お花を買って部屋に飾ることで、心が豊かになり余裕が生まれる」

ピンクの花で彩られたパリ市内のカフェ。花の空間演出は生活の身近な場にも【写真:小川由紀子】
ピンクの花で彩られたパリ市内のカフェ。花の空間演出は生活の身近な場にも【写真:小川由紀子】

 本林さんはフランス人のお花との付き合い方を知ろうと、毎週末、パリ市内のマルシェ(市場)にあるお花屋さんに立っています。毎週欠かさずお花を買いに足を運ぶ常連さんも多いそうで、「今日のママンのお花は何にする?」と子どもを連れて買いに来るパパもいるのだとか。そんな子どもたちはきっと、大人になったら毎週お花を求めてマルシェにやって来るでしょう。

 普段の買い物をマルシェでする人たちにとっては、野菜を買って、肉や魚を買って、次はチーズ、そしてお花……というのはルーティンの一部。「お花屋さんに買いに行く」という“わざわざ感”がない環境もお花との距離を近づけている理由のようです。

 本林さんは以前、お仕事をしていたお花屋さんのマダムから「『バカンスで数週間も家を空けて戻った後は、まずお花を飾って部屋を“整える”のよ』と教えられたのがとても印象的だった」と言っていました。

 冷蔵庫の中の食材を揃えるよりも、まずはお花を飾る。それは、お花が部屋にあることでしばらく無人だった場所に血が通い、生命力のある空間になるということなのだそう。

 それならば観葉植物でもと思いますが、切り花は命が短いからこそ、お花そのものが発する色や香りで人の五感をより刺激し、空間を感覚的に整えてくれるというのです。

「フランス人は花から発せられる刺激を敏感にとらえて、自分のための心地いい居場所を作ります。そして、他の人にもそんな環境にいてほしいから、プレゼントにお花を選ぶ人がとても多いのだと思います」

 コロナ禍になってから、フランスでのお花の売れ行きはグンと伸びているそうです。レストランでの会食が減っておうちごはんの機会が増加。テレワークになって家にいる時間が多くなったことで、部屋に潤いや華やぎを求める人が増えたことがその理由です。

 本林さんのお話の中で、私の心にとても響いた言葉があります。

「お花を買うというのは、もちろんお財布に余裕がないとなかなか難しいこと。それだけでなく、お花が持つ生命力といった魅力を感じられる心の余裕も必要です。でも逆に、お花を買って部屋に飾ることで、心が豊かになり余裕が生まれるのだと思います」

 機能性や便利さを追求する国で生まれ育った私は、あまり手をかけずに持ちがいい観葉植物を選ぶのがもっぱらでした。「色のある空間」が心を満たし、そのはかなさゆえに五感を刺激して気分を上げてくれる、そんなお花がもたらす幸せのスパイラルに開眼しそうです。

(小川 由紀子)

小川 由紀子(おがわ・ゆきこ)

ブリティッシュロックに浸りたい一心で渡英。ロンドンで約8年暮らした後、隣の芝が青く見えてフランスへ。以来パリを拠点に、サッカーやバスケットボールなどスポーツの取材を中心に活動中。「ここはアフリカか!?」というようなディープなエリアに生息しつつ、遅咲きのジャズピアニストデビューを目指して鍵盤と格闘する毎日。

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