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監督たちが満島ひかりを評価する理由 『TANG タング』に見る“理想的な役者”の姿

著者:関口 裕子

ほぼ演技は未経験ながら監督に意見を伝えた武勇伝

 満島が一番つらかったという時期は、2003年に「Folder5」が解散し、2005年に「ウルトラマンマックス」(中部日本放送、円谷プロダクション制作・TBS系)で演技の仕事を始める20歳までの2年間。「心も体もどこに向かってパワーを発散していいのか分からない状態でした」と語っている。

 持て余し気味な気持ちを抱えて獲得した作品「ウルトラマンマックス」は、監督たちが三池崇史、実相寺昭雄、金子修介らといったそうそうたるメンバー。「怖いもの知らずだった」という満島は、実相寺監督を「おじいちゃん」と呼び、演じたアンドロイドのエリーに涙を流させようとする三池監督に「アンドロイドは涙を流さない」と訴えた武勇伝がある。

 実際はとても優しいのだが、強面である三池監督に、ほぼ演技未経験の役者が意見を伝えた。経験があったとしても、当時、そんな風に言える若い俳優はいなかっただろう。三池監督の答えは、「涙じゃない。オイル漏れだ」だったそうだが。

 結局、泣きの演技に挑戦するも、無機質なアンドロイドのセリフで涙を流すのはとても難しく四苦八苦していた時、三池監督に助けられた。三池監督がやおら立ち上がり、情感たっぷりにそのシーンの実況を始めたことで、満島は無事泣くことができたという。「誰かが背中を押してくれて、一つの“瞬間”が生まれるのだと学びました」。その経験が俳優・満島ひかりの基礎を作ったのだと思う。

監督たちが絶賛「彼女はとぎ澄まされるほどに鮮やかだ」

 そんな満島を監督たちは面白がった。満島と仕事をしたことのある監督たちは皆こういう。「彼女はとぎ澄まされるほどに鮮やかだ」と。

(c)2015DI(c)2022映画「TANG」製作委員会
(c)2015DI(c)2022映画「TANG」製作委員会

 本作では、「のびのびとやわらかく面白い二宮さんの存在と、楽しそうに映画を撮っていて朗らかな三木監督のいる現場で、まるでのび太くんとしずかちゃんみたいな夫婦を演じました」と満島は言う。もちろんその陰には“リアクションのない空間との芝居”というテクニカルな演技があったわけだが、満島にとってそれすらとても楽しいものだったようだ。

 9月16日から公開される荻上直子監督『川っぺりムコリッタ』の満島もとても良かった。乞われて作品に参加するも、一緒に作り上げることを意識して臨み、さらに良いものへと押し上げる。

“理想的な役者”とは彼女のことを言うのかもしれない。ポンコツなロボットと未来を諦めた男が紡ぐファンタジーに、満島がもたらすのは何か? リアリティ? いいや、それだけではない。それを確認するだけでもこの映画を観る価値があると思う。

『TANG タング』8月11日(木・祝)全国ロードショー 配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2015DI(c)2022映画「TANG」製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。

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