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「カムカムエヴリバディ」で好演の新津ちせ 映画『凪の島』でも見せた“うまさ”とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

セリフでは表現しにくい生活の中にある機微を巧みに表現

『凪の島』を観ながら、なぜまだ小さかった『3月のライオン』のモモと、凪を演じた俳優が同じだと思いつくに至ったか? それは、ものを食べる屈託のなさ……食い意地が張っているともいえる“食べっぷり”だ。

『凪の島』には凪が、祖母の作った朝ごはんを食べるシーン、漁師たちと漁港で食べるおにぎりや焼いた魚介を食べるシーン、父との面会で豪華なフレンチを食べるシーンなどがある。

 凪は、迎えに来たクラスメイトに気づいて立ち上がるも皿に残ったおかずをポイッと口に投げ込む。そして、おにぎりを頬張り、フレンチをがっつく。いずれも見事な食べっぷり。生命力を感じさせた。新津は、そういうセリフでは表現しにくい生活の中にある機微をスクリーンにくゆらせるのがうまい。

(c)2022『凪の島』製作委員会
(c)2022『凪の島』製作委員会

 凪の父親がアルコール依存症になった理由は明かされない。ただ彼の抱える弱さを、看護師である母親は1ミリの狂いもなく、問題の輪郭をぼかすことなく追い詰める。凪は、そんな大荒れの嵐の中で、一歩も動けなくなっている両親を見守り続けてきた。

 両親のいさかいなど子どもにとってはただつらい光景だ。だからキャパオーバー時は過呼吸になる。でもコントロールできそうな時には自衛策がある。その一つは、ものを食べること。食べるシーンが印象に残るのはそのためだ。そしてもう一つ。海に入る――。

 冒頭は、凪が1人海の中で漂うところから始まる。海の中では、日常の煩わしい音はすべて遮断される。呼吸もできないので、過呼吸にすらなれない海。海は凪にとって一種のシェルターなのだろう。

 小さい頃、過呼吸になってよく海に飛び込んだという吃音の漁師の青年・守屋(結木滉星)のエピソードもそれを裏付ける(※現実では過呼吸の時に海へ飛び込まないでください)。そうやって自分をコントロールしながら、凪は大人の世界が“凪ぐ”のを待っている。

 凪と一緒に世界が凪ぐのを待っていたら、観ている側にも穏やかな空気が満ちていた。海の青さ、瀬戸内の島々の間に沈む太陽が作り出す夕日の美しさ、大畠駅から柳井駅に海沿いを走る山陽本線ののどかさ――。近年の岩井俊二監督作品を支える神戸千木カメラマンが映し出す景色が、やや不自由な生活を送ってきた我々をも慰撫するからか。

 名前が込めた思いの結晶なら、映画も作り手の思いの結晶。そんな風に思える作品だった。

『凪の島』8月19日(金)新宿ピカデリー、MOVIX周南ほか全国順次公開 配給:スールキートス (c)2022『凪の島』製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。

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