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人気のジビエも流通は1割未満 活用促進を阻む規制 元記者が伝える狩猟のリアル
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食肉としての流通は1割未満 狩りとれてもジビエが流通しないわけ
野生の鳥獣の狩猟には大きく分けて2つ、散弾銃やライフルを使う「銃猟」と罠による「罠猟」があります(そのほかに「網猟」もあります)。日本の狩猟期間は、原則11月15日から翌年2月15日(北海道では10月1日から翌年1月31日)。そのほか有害駆除は通年です。ただし、捕獲の目的は種を殲滅することではなく「適正な数に保つ」ことなので、捕獲数には上限が設けられています。
農業被害はわずかに減少傾向にあるものの、その被害額は全国で年間約155億円、長野県では7億円(いずれも2021年)を超えています。実際、私の手伝っているリンゴ畑やワインブドウの畑でも、春先に芽が食われる被害を目の当たりにしました。懸命に育てた農作物が一夜にして食い荒らされてしまった農家さんの心情は、計り知れません。
そこで、野生の鳥獣たちの存在を地域資源に変えていく動きの一環として、厚生労働省ではジビエを推奨しているのです。
しかし、店頭での販売や飲食店へ卸すためには、保健所の認可を得た施設で解体することが必要です。しかも、絶命から2時間以内に持ち込まないといけないなど高いハードルがあります。猟師がとって自家消費する場合だと同様の規制はないのですが、家畜類と違い野生鳥獣は衛生管理がなく、病気やウイルスなどのリスクがあるため仕方ありません。捕獲された獣類のうち、流通するのが1割に満たないのにはこうした実情があり、必ずしもジビエが安価ではない理由でもあります。
近年は、ジビエや狩猟に関してメディアで取り上げられる機会が増えているとはいえ、解体施設の設置に関することまではあまり報じられていません。ジビエブームや女性ハンターの活躍といったストーリーを伝えるのを優先するために、背景まで伝える時間や紙面がないのは理解しますが、元新聞記者として自戒を込めて言えば、もう少し丁寧に伝えてほしいと思います。
私自身も解体施設の設置を検討していますが、場所やお金などクリアすべき問題は少なくありません。それでも飲食店で「立科のジビエ」として商品化できれば、町のひとつの売りにできるのではないかと考えています。
長野県は「信州ジビエ」としてブランド化しているので、もっと安価に提供できるようになれば環境は変わるかもしれません。ほかの地域では若いハンターたちがグループやNPOを立ち上げ、模擬狩猟や解体などのワークショップを開催するなど参考になる活動をしているので、学びに行く必要性も感じています。