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「『もう愛情なんか』『別れてやる』と言うご夫婦が…」 全国初の入棺カフェで起こる「愛の可視化」とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・鍬田 美穂

「旦那様が泣きながらずっと語りかけて…」

 実は、多くの葬儀社でも入棺体験は行っています。一般的なケースでは、白い布張りなど実際に葬儀で扱う棺が置いてあり「ご自由にどうぞ」といった形です。しかし、入棺カフェや布施さんがポップアップショップなどで行っている入棺体験には、大きな違いが。

「入棺用のローブを着せかけたり、花をあしらったり、フタを閉じるなど、きちんとガイドします。棺が閉じられているのは、わずか1~3分。ただ、話し声や物音が聞こえても、棺に隔てられていると自分だけ別世界にいるような感覚で、長く感じると思います。人によってさまざまですが、入棺体験での“仮の死”を通じて、生に対してポジティブな気づきを得て『生まれ変わった気分』と言う人が多いです」と布施さん。

 これまでも、悩みや行き詰まりを感じていた人が入棺体験で自身の気持ちを見つめ、生きてやりたいことを再認識する姿を見てきたといいます。

2人用の棺でウェディングフォトの撮影も可能【写真提供:かじや本店】
2人用の棺でウェディングフォトの撮影も可能【写真提供:かじや本店】

 そうしたなか、同カフェは全国でも1つしかないという、2人用の棺を設置しているのが大きな特徴です。「死が2人を分かつまで」を体現するウェディングフォトや記念日など、夫婦やパートナーの絆を示す撮影に活用してほしい考えなのだとか。

 写真撮影ではないものの、実際に夫婦での入棺体験に立ち会った平野さんたちは、驚きの反応を目にしたそう。布施さんは「『愛の可視化』と呼んでいます」と笑顔で話します。

「たとえば、結婚25年でお互いに『もう愛情なんかね』『別れてやるわ』と言っているご夫婦が、出てこられたら抱き合って大号泣。別々に入られた方も、奥様が棺に入ってフタを閉めたら、旦那様が泣きながらずっと語りかけて……。みなさん『こんなふうになるとは思っていなかった』と言いつつ、大切に思っていることが実感できるようです」

元はグリーフケアのために作られた1つだけの棺

お子さんと3人で入棺体験した平野さん【写真提供:かじや本店】
お子さんと3人で入棺体験した平野さん【写真提供:かじや本店】

 自身は小さなお子さん2人と一緒に、3人で入った平野さん。「一緒にいられるのは当たり前じゃない。大事にしなきゃと、改めて思いましたね」としみじみ語ります。

 入棺カフェに2人用の棺を設置することを考えたのは、平野さんと布施さんの共通の友人が結婚する話がきっかけだったそう。ただ、ベースとなった棺は広島の棺メーカー・株式会社共栄が、あることを契機に作ったものだといいます。

「東日本大震災のあと、福島県で行ったイベントでグリーフケアのために作られました。お話ししたように入棺体験による“仮の死”は、生きることをポジティブに見つめられる要素があります。だから、もともとは夫婦だけでなく、家族で入棺体験するために作られた特別なもの。

 そもそもサイズ的に火葬場では使用できませんし、自分たちが知る限り1基しかない。もしかすると日本に1つだけではなく、世界に1つかもしれません」

 サイズは2倍ですが、オリジナルの棺を作るプロの布施さんが装飾するのが「3倍は大変でした」という工程を経て、新たな装飾で生まれ変わった棺。現在は喪失を癒やすのではなく、今ある大切な人を考えさせる働きをしているようです。

 入棺カフェをオープンし、実際に訪れた人たちの姿を見て、平野さんは「全国に、こういう施設ができればいい」と語ります。

「布施さんもあちらこちらでされているように、きちんとガイドした入棺体験イベントをしている人たちもいます。ただ、体験したいと思っても、なかなか機会がない人もいるはず。それに人生で一度しかないお別れを考えるためにも、こうした場があって気軽に、最期のわがままを叶える相談ができるようになるといいですよね」

◇平野清隆(ひらの・きよたか)
創業から122年の葬儀社・かじや本店の代表取締役社長。特許出願中の素焼きメッセージ骨壺をはじめ、従来の葬儀とは一線を画すアイデアでさまざまな施策を実施。業界の内外から注目を集めている。

◇布施美佳子(ふせ・みかこ)
2015年に日本初の骨壺ブランド「GRAVE TOKYO」を立ち上げ。2022年6月にメインプロダクトを骨壺から棺桶に変えてリスタート。ラフォーレ原宿をはじめ、多くのファッションビルでポップアップショップを展開し、多くのメディアに取り上げられている。

(Hint-Pot編集部・鍬田 美穂)