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松雪泰子が“すっぴん”で演じる40代後半・独身 イタさをさらけ出した先に見えるものとは? 映画『甘いお酒でうがい』

著者:関口 裕子

佳子のかわいらしさや知性をすっぴんで演じた松雪泰子

 そんな川嶋佳子を“すっぴん”で演じるのは、松雪泰子。限りなくすっぴんに近い薄メイクという意味でも、心を解放するという意味でも“すっぴん”だ。もし彼女が、川嶋佳子であることに少しでも恥じらいをにじませたら、この映画は成立しなかっただろう。観ているこちらがイタさを感じるのは、松雪が、川嶋佳子のかわいらしさや謙虚さ、知性だけでなく、思い上がりや経験を積んでいると勘違いしている部分を存分に見せ付けるからだ。

 そこには松雪自身の人生から引き出されたものも当然あるはず。それを躊躇なく見せるところが面白い。黒木華があと10歳、年長であったなら、彼女の演じる川嶋佳子も観てみたいと思う。彼女の場合は、ドラマ「重版出来!」(2016)や「凪のお暇」(TBS)、映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)、『日々是好日』(2018)からも、すでに川嶋佳子像がにじみ出ているように感じるが。

 日記形式の映画には『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズ(2001、2004、2016)や、ナンニ・モレッティ監督の『親愛なる日記』(1993)、同じく芸人のバカリズムが原作者の『架空OL日記』(2020)などもある。これらは笑いの種類は異なれど、日記が最初から“笑わせること”を目的として存在するので、心おきなく笑うことができる。

 だが『甘いお酒でうがい』の川嶋佳子は大真面目。笑わせようと思っていないところがイタく、それを回避するために自虐を伴う笑いへと昇華する。じろうはこの日記風小説の執筆理由をこう話している。

「川嶋佳子はとにかくついていない。しかし彼女は自分の不運を客観的に見て、自分に舞い降りる不幸に意味を持たせることで日常を楽しんで生きている。その姿勢こそが僕がテーマに掲げていることであり、この日記に触れた方に伝えたいことなのである」

 いや、決して不運とは思わない。自分の世界を持っており、時につらい物事をその中で完結させることもできる大人なだけなのだと思う。だからこそ、映画が終わる頃には、川嶋佳子の人生を応援したいと思うようになるのだ。いや、むしろ応援しているのは、彼女のイタさに同調している自分自身なのかもしれない。

 
『甘いお酒でうがい』9月25日よりヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル新宿ほかにてロードショー

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。

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