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ナマハゲが男を“父”に変える? 仲野大賀が大人になり切れない男を演じる『泣く子はいねぇが』

著者:関口 裕子

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先に“母”となっていた元妻 ようやく向き合うことを決めた元夫

 諸悪の根源は、子どもじみたたすくの行動……とも受け取れるが、実はそれだけではない。たすくの家は元々、製材所を営んでいたが、今では工場を手放さざるを得ない状況。これは林業、農業、漁業という第一次産業の衰退を表している。経済が落ち込み、就労が難しくなると、人口は減り、活気も失われる。

 そんな状況は、人々から、家庭から余裕と自信を奪った。それは、きっと、たすくの家にも影響を及ぼしたことだろう。製材所を継いだ兄の悠馬(山中崇)の苦労はたやすく想像がつくが、働き口も未来への展望もない次男のたすくはどこに自信を見出そうとしたのか。

 たぶんそれは恋愛と、神事ナマハゲを受け継いでいく者としての地域からの期待の2つ。幼なじみであったことねとたすくが、どのように恋に落ちたかは定かではないが、子どもが誕生した後のことねに残されたのは、たぶん“この世に受けた生をいかに存続させるか”という究極の命題だけ。あやふやな未来に頼ることはできなかった。経済的に事足りていたなら、2人は別れなかっただろう。

 たすくの自信の源は、恋愛していた頃のことねにある。だからこそ、たすくは男鹿に帰り、再び人々に迷惑をかけながらも向き合わねばならなかったのだ。ことねは子どもが生まれた時に、すでに大人に、親になっていたのに。

子どもを守ることで男の心を父親にする行事

 秋田県の出身である佐藤監督は、いつか“ナマハゲ”の映画を撮ろうと思っていたのだという。子どもの頃、友人の家でナマハゲの襲来を経験し、父親にしがみ付く友人の姿に、「これは子どもへの教育であるとともに、子どもを守ることで男の心を父親にする行事なのではないか」と感じたのだそう。

 ただ現在は、映画にも描かれるように、子どもがナマハゲを怖がらなくなり、また核家族化した家に他人を入れることを拒む風潮もあり、演じ手の不足だけでなく存続は難しくなっている。

 豊穣を祈る昔の必然とは異なっても、自信の持てないたすくがナマハゲの担い手として期待されることで心のバランスを取ったように、この神事には別の意味が生まれている。継続する方法を考えることこそ、この地域ならではの活況につながるのではないか。東京生まれ、東京育ちの仲野大賀が、たすくを絶妙に演じることで、そう強く感じた。

 
『泣く子はいねぇが』11月20日(金)より新宿ピカデリー他全国ロードショー 配給:バンダイナムコアーツ/スターサンズ (c)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

◇関口裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。

(関口 裕子)