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俳優・のんが独り言の止まらない31歳独身女性に 仕草や瞳の輝きに注目したい『私をくいとめて』

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

深いテーマをさわやかに見せる、のんの仕草や瞳の輝き

 独り言……頭の中で自分に語りかけることを、心理学では、内言(インナースピーチ)と言うそうだ。私たちは内言によって、自分の行動の計画と監視や感情の調整、独創的発想の促進などの目的を果たしているらしい。内言には、対話を伴わない内言(モノローグ)と対話を伴う内言(ダイアローグ)があり、英ダラム大学のC・ファニーハフ教授によると、後者の時の脳は“実際に会話している”と認識する社会的認知系の領域が働いているという。

 相談役「A」と対話するみつ子の独り言は、社会的認知系のダイアローグ型内言となる。「A」と興奮気味に話すこともあるみつ子だが、心理学的に見るとダイアローグ型内言は、他者との対話を内在化できているからこそ可能な行為であり、開いた窓から他者の視点を取り込み、整理している過程という状況らしい。

 私たちが日々取り込んでいる、他者の話、および本やテレビ、ラジオ、SNS、映画やドラマなどのメディアからのさまざまな情報は、独り言によって自分の意識に取り込まれていくのだ。筆者自身、独り言が増えて不安に思うこともあるが、悪いことばかりではなさそうだ。原作の綿矢りさは、その辺りもたぶんに意識して執筆したのだろうと思われる。

 でも、この映画の魅力の源は、何といっても俳優・のんにある。立体化させた文字を空間に浮かべたり、「A」がそこにいるかのようにみつ子と対話させたり、物理的に体を持った「A」とみつ子が対峙するキュートな場面を用意したり、大九明子監督の演出も魅力的だ。だが、みつ子を演じるのんの仕草や瞳の輝きを見ているだけで、まるでマイナスイオンを浴びているように心が落ち着く。こればかりは心理学で説明できないが、のんには劇中で使われる大瀧詠一の「君は天然色」という言葉がよく似合う。

 イタリアに嫁いだ親友・皐月とクリスマスを過ごすため渡欧している間、みつ子は「A」とほぼ対話しない。妊娠中という設定の皐月と過ごすみつ子に必要だったのは、「A」との対話で行う調整や迷いの払拭ではなく、皐月および皐月との日々を受け止める時間だったのだろう。

 独り言によって整理された思考が支えるのは、みつ子の“旅”みたいな能動的行動。思考するだけではその場から動けないから、思考して行動し、思考して行動し、少しずつ前に進む必要があるのだ。旅のような行動は、一般的には“なくてはならないもの”とは認識されないかもしれない。

 それでも“重要”な理由とは、たぶん私たちの人生は、“不要不急ではないが大切なこと”をチョイスしていくことで成り立っているから。観終えた後も、そんな対話が頭の中で成される作品だ。

 
『私をくいとめて』12月18日(金)全国公開 配給:日活 (c)2020『私をくいとめて』製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。

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