インタビュー

パラ競泳・一ノ瀬メイ選手とロッテ美馬投手の妻・アンナさんが対談 先天性欠損症という「障害」への思い

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

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リオパラリンピックに出場した一ノ瀬メイさん【写真:Getty Images】
リオパラリンピックに出場した一ノ瀬メイさん【写真:Getty Images】

「そもそも『障害者』『健常者』って分けることが、ちょっと違う」

――一ノ瀬選手が考える「障害を感じずに生きられる社会」の土台には、高校生の時に「全国高等学校英語スピーチコンテスト」で発表なさったスピーチがあるように思います。「社会モデル」という障害の捉え方を広めようと訴えるスピーチで全国優勝を飾りました。障害の「社会モデル」とは「障害を作っているのは社会であり、社会の在り方が変われば誰もが障害を感じずに住みやすくなる」という考え方ですね。

メイ:実は、最初にスピーチコンテストに出た時は、近畿大会で敗退しているんです。2回目に出た時に全国優勝したんですけど、1年目も2年目も自分の伝えたいことは変わっていなかった。自分はこういう生い立ちで、こういう夢があって、こういう風に社会を変えたいっていう想いは変わらなかったんです。

 ただ、1年目は審査員の方に「問題が個人的だ。それは社会の問題ではなくて、君個人の問題だ」って言われてしまって、私が伝えたいことは一切伝わっていなかった。すごくショックでした。その時、これは全国優勝くらいしないと内容は聞いてもらえないと思ったから、2回目にチャレンジした時に「どうしたらみんなが他人事ではなく自分事として捉えてくれるんだろう」って考えたんです。

 なんか障害の話になると「あ、障害者の人の話ね。私たち関係ないから」って、健常者と障害者ではっきり線引きがされてしまう感覚があるんです。だから、2年目は「社会モデル」を紹介することで「私たち一人一人が構成する社会こそが障害を作っているんだから、私たち一人一人が変わって社会が変われば障害者はいなくなるんだ」という風に伝え方を変えました。そこには、みんなに自分事として捉えてほしいという想いがあったんです。

アンナ:その考え方を教えてくれたのはお母様だったとか。

メイ:母は私が生まれた後、子どもが障害を持って生まれてきたから障害学を勉強したいと、40代後半でイギリスの大学院に留学したんです。そこで学んだのが、障害にはいろいろなモデルがあるということ。その中のメインが「社会モデル」ともう1つ、「個人モデル」と呼ばれるもので、日本は「障害者が生きづらいのは、その人が持つ障害のせいだ」と考える「個人モデル」に結構寄っているんですね。

 世界では「社会モデル」がどんどん主流になってきているし、みんながこの考え方をするようになれば障害はなくせるんじゃないか。そう母が教えてくれたんです。私も「社会モデル」のような考えは持っていたんですけど、しっかり言語化することができなかった。でも、母のおかげで学術的なエビデンスがある考え方を紹介できたことで、すごくパワフルな内容になったと思います。

――スピーチでは「社会モデル」を説明する例として、英語が話せない人が英語圏の国で感じる不便さも「障害」だ、おっしゃっていましたが、その例はスッと入ってきました。

アンナ:私、今は結婚して名字が「美馬」ですけど、祖父がフィリピン人なので旧姓はカタカナで「サントス」なんです。だから「サントス・アンナ」って全部カタカナ。でも、見た目が日本人だから結構イジられたり、英語が話せないことに憤りを感じたり……。そういう経験もしていたので、一ノ瀬選手の言葉にすごく共感できましたね。

――身体的な障害を持っていなくても、見方によっては誰でも社会の中で障害者になり得る。だからこそ、社会の考え方が変われば「障害」という言葉さえなくなる可能性があるかもしれません。

メイ:そうなんです。そもそも「障害者」「健常者」と分けることが、ちょっと違うなとて思っています。生きる上で何か障害を感じていたらみんな障害者だし、逆に腕が短くても生きる上で障害を感じていなかったら障害者じゃない。だから、障害者かどうかって人が決めつけるものじゃなくて、本人がどう感じているかだと思うんです。「腕が短い=障害者」みたいなのは、もうなくなっていかないといけないなと思います。

 だから、社会が変わることで障害はなくなるという考えが伝わってほしい。今まで、この考え方は障害のない人、非障害者の人たちに伝えていかないといけないと思っていました。でも、実は障害者の家族や障害者本人にこそ、「社会モデル」を伝える意味があると、最近初めて気付いたんです。少し前に中途で車いすになった方と対談させていただいた時、最初は「歩けない私が悪いんだ。車いすの私が悪いんだ」って思っていたけど、社会モデルを知った時に「自分はこのままでいいんだ。自分は悪くないんだ」って初めて思えたとおっしゃっていました。

 私は自分を責めたことがなかったから「あ、自分を責めてしまう人もいるんだ」と、その時に初めて気付いた。だから、障害のある本人やご家族に「その子が悪いのではなく、社会が変わればその子は障害を持たなくて済むから、社会を一緒に変えていこう」という発信も併せてしていくことがすごく大事。私が最近得た学びです。

アンナ:環境によって考え方の違いが生まれてくるんでしょうね。周りが「この子はなんで歩けないんだろう」と思ったことが伝わって、子どもが小さい頃から「歩けない自分が悪い」って認識しながら育ってしまうとか。

メイ:そうなんです。だからこそ、障害者、非障害者に関係なく、みんなに対して社会モデルっていう考え方が広まる必要があると思うんです。