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稀有な少女スターから巧みな表現力の役者へ 原田知世が53歳の今も醸す独特の空気感

著者:関口 裕子

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原田の中にある“ハードボイルド”さを見抜いていた年長男性たち

主演作の合津直枝監督『落下する夕方』(1998)は多くの海外映画祭で正式招待作品に【写真:Getty Images】
主演作の合津直枝監督『落下する夕方』(1998)は多くの海外映画祭で正式招待作品に【写真:Getty Images】

 角川書店の元社長で『愛情物語』(1984)、『キャバレー』(1986)などの監督でもある角川春樹氏は、当時の原田を「育ちのいい礼儀正しく優しい少女」だと語っている。初期の主演映画のヒロイン像には彼女の素地がにじみ出ている。『時をかける少女』の大林宣彦監督や角川監督、『早春物語』の澤井信一郎監督らは、彼女だけが持つその独特の空気感を、何より大切に演出したのだと思う。

 そんな原田の相手役は、『愛情物語』の渡瀬恒彦、『天国にいちばん近い島』の峰岸徹、『早春物語』の林隆三と、皆20歳くらい歳が離れていた。どのキャラクターも決して品行方正な“あしながおじさん”ではなく、浮名を流す余裕すら持つハードボイルドな男性。無垢な少女性を際立たせるための配役かとも思うが、むしろ原田自身も“ハードボイルド”な存在だと言っていたのかもしれない。

『黒いドレスの女』(1987)の崔洋一監督は、作品を「青春自立映画にするのは止めようと思っていた」と語っている。今思えばそれは原田の中にある“ハードボイルド”さを見抜いていたようにも思える。

 共演者の永島敏行は「原田の何とも言えない目に時々ドキッとさせられた」と言い、映画の中のバイオレントなアクションシーンでも“怯え”ではなく“冷ややかさ”をその目に宿して見せた。理解するまで対象を見つめようとするクールな目。思う通りに演技できる場を作ったという崔監督の演出ではなく、原田の解釈なのだろう。何ともそそられる。

 19歳で出演した『黒いドレスの女』を最後に角川春樹事務所から独立。以後、音楽活動にも力を入れていく。原田は自分で詞を書き、セルフプロデュースを行うこともある音楽活動によって「自分と向き合う時間が増え、人間的にも仕事にもいい刺激となり、今の自分がある」と語っている。

 演技以外にも表現の場を増やしたことで、彼女はより“原田知世”になり、その幅も広がったように感じた。原田自身が好む「うまい歌やお芝居よりも、味わいを感じさせてくれるもの」へとなっていったというか。また、演技では合津直枝監督の主演作『落下する夕方』(1998)が第48回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門などに正式招待されている。

少ない登場シーンでも醸す空気で物語を掌握する映画最新作

 2019年はマンション内で始まった交換殺人ゲームを描く大ヒット連続ドラマ「あなたの番です」(日本テレビ)に主演して注目された。今年はその映画版も公開される。

 一方、映画の母親役でも強烈な印象を残す。両親が新興宗教にハマった子ども、ちひろ(芦田愛菜)の母親を演じた大森立嗣監督の『星の子』(2020)だ。中学生という親の庇護下を離れることが難しい年代の子どもの葛藤を描いた問題作だが、原田でなければたぶん映画のテーマを履き違えてしまう可能性があったのではないだろうか。セリフは少ないが、私たちを揺さぶり映画の醍醐味を見せ、なおかつそのテーマへとリードし、深く考えさせる役割を果たした。

 さらに印象的なのは、SUBU監督がベストセラー小説を映画化した最新作『砕け散るところを見せてあげる』だ。弱い自分を変えようと正義を貫こうと踏ん張る高校生・清澄(中川大志)と、彼によっていじめから救われる同級生・波璃(石井杏奈)の、想像を絶する“青春”を描いたサスペンスフルなラブストーリー。原田は大人になった現在の波璃を演じているが、セリフはほぼない。

 ただ「砕け散るところを見せた」のは波璃であり、全編が彼女の話であるため、原田が少ない登場シーンで醸す空気が物語をすべて掌握する作品となっている。

 2作とも、原田がデビュー以来、培ってきた表現力を最大限に活用している作品だ。大森監督、SABU監督のキャスティング力の勝利とも言える。ただ同世代の監督としては、たぶん原田の別な表情も観せたかったのではないか。同世代のファンとしても、ぜひ観たいように。

 
『砕け散るところを見せてあげる』2021年4月9日(金)新宿ピカデリー、イオンシネマほかにて全国公開(c)2020 映画「砕け散るところを見せてあげる」製作委員会

◇関口裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。

(関口 裕子)