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仕事・人生

父の余命を決めることに? 「胃ろう」か「点滴」か 迫られたアラフィフ娘の決断とは

著者:和栗 恵

家族で熟考し点滴を選択 父との久々の面会

 今回、父親の今後を決定するであろう「点滴か、胃ろうか」という選択を前にして、母、兄、そして私の家族3人は、悩みました。

 胃ろうを選択すれば、あと数年は生きてくれるかもしれない。でも、認知症のまま、ベッドにくくり付けられたまま、何年も生きていくことは父親にとって本当に幸せなのだろうか? 食事を自分でとることができず、ほぼ寝たきりの状態で父は満足なのだろうか?

 モヤモヤとした思いを抱えて熟考した結果、私たちは「点滴」を選びました。

「父親の生死を、私たちが勝手に選択していいのだろうか?」

 そうした後悔の気持ちは今でも抱えています。でも、きっと、父は祖母と同じ言葉をつぶやくだろうな。そう思えたのです。

 点滴のみに決めたことで「近いうちに訪れる死を受け入れたもの」と見なされ、コロナ禍の中、特別に家族だけの見舞いが許されました。サージカルマスクをし、上からフェイスシールドをかぶり、手袋をはめる。そんな厳重な“装備”をした上で、面会のために許された時間はわずか5分。この時ほど、コロナウイルスを憎んだ瞬間はありません。

 久しぶりに見た父親は、一瞬、誰だか分からないほど面変わりしていました。骨と皮だけになり、だけどにっこりと笑顔を浮かべている。間もなく訪れる死を予兆させる面差しに、涙が止まりませんでした。

 すると父が、私の目を見つめてこう言ったのです。

「来てくれて、ありがとうね。今まで、ありがとうね」

 私の隣にいた夫や、ともに見舞いに行った叔父(父の弟)のことは、もう父の記憶から抜け落ちていました。それでも、母、そして私のことは、ギリギリ、覚えているようでした。

 そんな父を見た時、私たちの選択は間違っていないと確信しました。

 私たち家族のことすら忘れてしまう前に、夫として、父親として、死なせてあげたい――。

 今、父親はその1日のほとんどを、ベッドの上でウトウトとまどろみながら過ごし、最期の時間を待っています。私たちにできることは少なく、このような状態にあっても、見舞いは簡単には叶いません。このまま再び会うことができずに亡くなることもあるでしょう。

 もしかしたら将来、この選択が私たち家族を苦しめるかもしれません。それでもきっといつか、天国で父親と再会した時に「あの時、点滴にしてくれて良かった」と。父ならきっとそう言ってくれるものと信じています。

 今はただ、父からの「ありがとう」が、心に焼き付いています。

(和栗 恵)

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