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コロナ禍で風俗業界に入ったシングルマザー 尾野真千子が「命がけ」で挑んだ理由とは

著者:関口 裕子

涙ながらに制作への思いを語った尾野「これが私たちの使命」

(c) 2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ
(c) 2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ

 小児ぜんそくを持っていた尾野は、コロナ禍で仕事を控えていたそうだ。しかし2020年6月、本作の脚本を書き上げた石井裕也監督からオファーを受ける。脚本を読んだ尾野は、「たくさんのメッセージが詰まっていて、石井監督はコロナ禍でとんでもない台本を書かれたんだな」と思ったそうだ。

「伝えたいものがいっぱいある。女優を休んでいる場合じゃない」。そして「この作品で何かが起こっても後悔しない。死ぬ気で頑張ろう」という気持ちになったと語っている。

 そんな尾野が映画初日の舞台挨拶で号泣したことが話題になった。多くの方が在宅勤務などで外出を控える中、多くのスタッフ、キャストと接触しながら撮影を行うこと、そしてそんな映画を“必要な文化”と捉えてロケ地を貸し、撮影を許可してくれるのか……など、「恐怖が襲ってきましたが、これが私たちの使命だと思い、命がけでやりました」と、途中からは出身地である奈良のイントネーションで訴えた。

 どんな深刻な状況であろうとも、子どものために“強さ”を演じるすべての母親へ向けた石井監督のメッセージを、自身の演技を通して「伝えなければ」と思ったからこそ“良子”役と向き合った。

 舞台挨拶の時、隣で尾野の発言を聞いていた石井監督は、彼女の涙の行方を見守っていた。尾野の頬を伝った涙は首筋を通り、「みるみる鎖骨にたまっていった」と後日語っている。

「コロナによって暴かれた理不尽極まりない社会への怒りを映画にしたいと、母の亡くなった歳を迎える直前にひらめいた」という石井監督。そのメッセージを伝える良子役には「尾野真千子さんしか考えられませんでした」とも言っている。コロナ禍だからこそ伝えたいことを、演出家、そして役者が形にしたのが『茜色に焼かれる』なのだ。

 
『茜色に焼かれる』全国公開中 配給:フィルムランド・朝日新聞社・スターサンズ (c) 2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。

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