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認知症の父 「車の処分」で暴力的に 免許返納でアラフィフ娘が直面した問題
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環境の変化 車の処分が認知症を悪化させる原因に…
認知症患者の特徴として「急に環境が変わると、それになじむことができず、症状が悪化する」というものがあります。
人間関係、生活環境、そして生活習慣。そうした、これまで“慣れてきていること”をできるだけ変えないよう配慮してあげることが、認知症介護には必要なことなのですが、どうしても変えなければならないこともあるのです。
残念ながら私の父も、車が突然消えてしまったことに大きな不安を覚えてしまったようで、妄言がひどくなり、母に暴力を振るうようになりました。離れて暮らす私にも、車を処分してからは、毎日4度5度と電話があり、たとえば次のように言ってくるのです。
「車をどこかに停め忘れてしまった。どこにあるのか分からない」
「車が盗まれてしまった。今から警察に行ってくる」
「どうやら仕事先に車を置き忘れてきたようだ。でも、どの家に行ったか分からない。おまえ、何か心当たりはないか?」
「ディーラーに修理に出したはずの車が、まだ帰ってこない」
このように「車が無い」ということに対して脳内で作られた妄想を、何度も何度も繰り返しぶつけてくるようになったのです。
父から電話があるたび「車はこの前、処分したばかりでしょう? お父さんも車を手放すとき、一緒に立ち会ったじゃない」と答えるのですが、
「なんで勝手に処分するんだ! 俺はいままで、車で事故を起こしたことなどない! 人を勝手に病人にするな!!」
「そうか、おまえが処分してくれたのか。俺ももうボケてきてるから、それが一番だよな……」
「処分なんかしてないだろう! 俺はさっきまで車に乗っていたんだ! 嘘をつくな!」
と、暴力的な言葉を返したり、殊勝な返事を返したり……。車の処分という決断が、私の父の場合は、認知症をさらに加速させてしまう結果になってしまったようです。
介護をして初めて「環境を変えない」ことが「一番難しい」と知った
もちろんのことですが、車を処分するときには家族みんなでとても悩みました。車を運転するということは、頭をその分使うということ。医師によっては「軽度であれば認知症でも問題なく運転できる人もいる。『認知症だから』と一律に免許を取り上げるのは問題。認知症の人たちから、運転の楽しさや移動の便利さを奪うな」と、免許返納に反対する意見も上がっていると聞きます。
父のためには、車を取り上げないほうがいいのではないか?
環境を変えないほうが良いのであれば、車は必要なものではないのか?
車はそのままに、車の鍵だけ取り上げればいいのでは?
しかし、警視庁の発表によれば、交通事故における高齢運転者の割合は、平成21年には12.2%だったものが、平成30年には18%にまで増加。毎年約6000件もの、高齢運転者による事故が起こっています。
事故の原因は、加齢により「注意力や集中力が低下している」「瞬間的な判断力が低下している」「過去の経験から大丈夫だろうと判断してしまう」などの要因があるといいます。自身の衰えを現実的に見ることができないことが、事故を起こす結果を生み出しているのかもしれません。
そうしたことを踏まえ、家族会議で出た答えは、「万が一にも、交通事故を起こされてからでは遅い」だったのでした。後編は、免許返納を頑なに拒否する父に、どう向き合ったかを記します。
(和栗 恵)