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仕事・人生

認知症の父、鬱状態の母 離れて暮らすアラフィフの娘が向き合って気付いたこと

公開日:  /  更新日:

著者:和栗 恵

父と暮らす母は鬱状態に 母親の面倒まで見られるのか? そのとき悟ったこと

 父の症状に、心を病んでいったのは毎日をともに暮らす母でした。鬱のような状態となり、突然怒鳴り出したり、泣き出したり。しかし、いま最も問題にすべきは認知症の父親。仕事をし、離れて暮らしている私は、物理的に、鬱状態の母親の面倒まで見ることはできない……。そう悟った瞬間、私がとった行動はごく簡単なものでした。

「お母さん。お願いだから、お父さんとなるべく顔を合わせないように生活してください」

 父には冷たいようですが、鬱状態となった母には父からなるべく離れることをお願いしました。食事の世話以外の時間はなるべく自室か外で過ごし、父と会話する時間を減らしてもらうよう母にお願いしたのです。その代わり、父との会話は私が受け持つことを心に決め、毎日15分~1時間ほど、電話で応対するようにしました。

 そもそも母にとって父は、夫とはいえ、もともとはまったくのアカの他人。血のつながりはありません。でも私は、父とは血のつながった親子です。他人ではない以上、やれることはやらなければならないのだ、と奮起しました。

父の「病気」を受け入れること、大らかな気持ちで向き合うこと

 不思議なもので、相手が明らかに「病気」であり、言っている内容はすべて「妄想」であると理解できるようになると、相手の言動に怒ったり振り回されたりすることすらバカらしいという気持ちになり、優しい気持ちで接することができるようになりました。

 また、こうしてこちらがおおらかな気持ちで、父が話したいことを思う存分話をさせてあげると、これまた不思議なことに認知症の症状が落ち着き、毎日のように起こっていた被害妄想的な出来事が2~3日に1回程度に減るようになりました。

 現在は父と、たまに母の心のケアを行いつつ、父の自家用車の廃棄処分や、免許返納、その他もろもろの雑事を進めている真っ最中。災害が多い日本。もし今、認知症の父が被災したら? など不安に思うことはありますが、症状が進行することは避けられないと感じています。そうなったら専門施設に入居してもらおうと、実家付近の施設探しも並行して行っています。

 平均寿命は延び、認知症の発症者数が年々増加し続けている現在、家族のなかに認知症患者がいる生活は「対岸の火事」ではありません。もしも肉親が認知症になってしまったら……困った! 辛い! と自身が泣き叫んだり怒ったりするよりも、認知症を患った肉親に対して、大らかな気持ちで向き合うことが大切なのではと、自分の経験から感じています。

 笑顔、そしてコミュニケーションが、認知症のなによりの療法なのだ、と。

(和栗 恵)