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主婦目線で始まった野菜のごはん 発刊したヴィーガン料理本は70冊に 庄司いずみさんの原動力

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・井上 千春

キッチンは野菜料理の実験室に ブログスタートが転機

 キノコを刻みミートソース風、長いもでオムレツ、大根をから揚げにしたり、白菜でしょうが焼き、おからでソーセージを作ったり……。庄司さんの発想は当時から斬新。頭の中は大好きな野菜でいっぱいだったという。ふとした時に、食材の組み合わせのアイデアが浮かんだり、調理方法や合わせる調味料を考えたり。自宅のキッチンは実験室となった。ベジタリアンではない家族用に魚や肉のおかずも料理をしたという庄司さん。実験で上手にできた野菜の料理は、再度作って家族に感想を求めたりしたという。

「いろいろ作ってみて、想像もしていなかった味がどんどん見つかって、野菜はすごいと改めて思いましたね。そこで、こんな野菜料理を紹介できれば、みんなもっと野菜が好きになるのではと考え始めたんです。ライターのお仕事はしていましたが、だからこそ私のような素人が料理本を出せるわけがないこともわかってました。そのうちに料理ブログから、レシピ本が次々ヒットするのを目にして『本を出すならこれが唯一の道かも』と」

 思ったらすぐに行動する。2007年2月にブログをスタート。発想豊かで奇想天外な野菜が主役のレシピたちは、ブログの発信で主婦層に広く知られ、受け入れられることになる。「簡単に作れておいしかった」「野菜嫌いの子も食べた」「余った野菜でなにを作ったらよいか?」など、たくさんのコメントがつくようになった。人気ブログとして話題に。「野菜のごはん」の輪が一種のムーブメントのように広がっていった。2008年3月、最初のレシピ本「野菜のごはん」を出版する運びとなる。

「とにかく野菜についていろいろ知りたくて、八百屋さんや料理人さんに扱い方や調理法を教えていただいたり、たくさんのことを調べました」

 栄養面や保存方法、どう食べるのが一番おいしいかなど野菜への愛と好奇心、探求心は止まらない。野菜の旨みを生かすために、干したり、凍らしたりして使うのも庄司さんの“技”。やがて、本だけじゃなく、実際に集まって野菜のおいしい料理を教えたり、共有したりする場を持ちたいという思いが強くなり、料理スタジオ「庄司いずみ ベジタブル・キッチンスタジオ」を立ち上げた。15年のことだ。

野菜料理が当たり前の世の中に ベジブームに新しい波を起こしたい

 今、庄司さんは「野菜のごはん」ブームに新しい波を起こそうとしている。ベジタリアン料理を楽しみ、学ぶコミュニティ「ベジタリアン・キュイジーヌ・サロン」の活動を始めた。会員向けに、食事会などどさまざまなイベントの開催、国内外のベジタリアンニュースの配信、お店からの特典などもある。庄司さん自身、実際にフランスなど海外に足を運び、現地のベジ事情なども取材して発信していくという。

「たとえば、ロンドンのレストランではメニューに『V』マークが入っていて、ベジタリアンメニューだとすぐにわかりますし、最近ではパリでも多くのビストロやカフェにベジタリアンメニューがあります。日本のコンビニや学食、社食でも、おいしい野菜料理がどこでも食べられるようになってほしい。それが私の目標なんです。誰もがベジタリアンになる必要はないと思いますが、ベジメニューが選択肢の一つとして当たり前のように、もっと一般的になればいいなと思うんです。いつでもメインが肉、魚、野菜の中から選べると素敵ですよね」

 来年に控える東京五輪を前に、思うことがあるという。

「もともと日本にも精進料理など野菜の文化があるし、最近の日本のベジカフェの野菜料理は味もセンスもテクニックも世界でもトップクラスだと感じています。そういうことも海外の人に広く知ってほしい」

 野菜料理の魅力を多くの人に届けたい――その思いが庄司さんを動かす大きな力となっている。

◇庄司 いずみ(しょうじ・いずみ) 野菜料理家。「庄司いずみ ベジタブル・キッチン・スタジオ」(http://shoji-izumi.tokyo/)主宰。20年ほど前の出産を機に、主婦目線から野菜料理の研究を始める。コミュニティ「ベジタリアン・キュイジーヌ・サロン」」(https://camp-fire.jp/projects/view/119002)を立ち上げ、フリーライターの経験を生かし、野菜ずしブックレットやマガジンの発刊なども行う。社員食堂やコンビニ食のメニュー開発など、野菜の魅力を広めるため、幅広く活動している。

(Hint-Pot編集部・井上 千春)