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右手のない愛息の出産から4年… 美馬アンナさんが第2子出産を決めた理由

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

美馬アンナさんと長男のミニっち(2022年撮影)【写真:荒川祐史】
美馬アンナさんと長男のミニっち(2022年撮影)【写真:荒川祐史】

 プロ野球・千葉ロッテの美馬学投手と俳優・アンナさん夫妻には、好奇心旺盛でユーモアある4歳の愛息・ミニっちがいます。生まれつき右手首から先がないミニっちを迎えた美馬家の日常を、アンナさんはSNSで包み隠さずに発信。同じ境遇にある誰かの一助になることを願っています。2023年8月、美馬家に大きな変化がありました。第2子となる長女・ひめっちが誕生したのです。4人家族となってから半年。「最高に幸せ」というアンナさんですが、妊娠・出産に不安がなかったわけではありません。前編では、2人目の妊娠を決めた理由と美馬家の子育てについて伺います。

 ◇ ◇ ◇

息子を「お兄ちゃんにしてあげたい」も、頭をよぎる4年前の経験

 2019年10月、30時間にも及ぶ初出産を終えたアンナさんは、胸の上に置かれた我が子の右手がないことに気づきました。まさかの出来事に絶望の淵で涙が止まらないアンナさんを救ったのが、「この子に俺とアンちゃんの間に生まれてきて良かったと思ってもらえるくらい、俺は幸せにできる自信があるよ」という夫の言葉。そして、家族や友人をはじめ周りの人々のサポートでした。

 障がいがあるとは感じさせない逞しさを持ってほしい――。夫妻はそう願い、たっぷりの愛情と厳しさを持って子育てに励む毎日。義手を使うべきか、右手がない理由はどう説明するべきかなど、さまざまな悩みに直面しながらも、専門家やパラアスリートらの助言を参考に乗り越えてきました。

 工夫しながら何でも一人でできるようになったミニっちは、明るく優しい男の子に成長。友人の赤ちゃんを愛おしそうにあやす姿を見るうちに、夫妻は次第に「お兄ちゃんにしてあげたい」と思うようになったそうです。

「正直、悩みました。最初は怖さしかなかったですから。2人目も障がいがある可能性が高いことは覚悟できていた。それよりも、あのときの暗い自分に戻るのが嫌だったんです。やっぱりトラウマではあるんですよね。ただ、その怖さより『この子をお兄ちゃんにしてあげたい。夫を2人のパパにしてあげたい』という気持ちが勝ってきました」

 夫妻で確認し合ったのは、ミニっちに注いだ愛と同じ大きさの愛で2人目も育てられるかどうか。第2子、第3子を持つ友人たちが「1人目と同じくらいかわいいから大丈夫」と口を揃えること、何よりもミニっちが真っ直ぐ成長する姿に背中を押されました。

「息子の成長をうれしく思うし、自信にもなる。この気持ちのまま、2人目にも同じ愛情をもって育てたい、育てられると思いました」

公園で「なんで手がないの?」と質問攻めに…「悲しかった」

先天性形成不全のため右手首から先がない長男ミニっち2歳半の頃【写真:荒川祐史】
先天性形成不全のため右手首から先がない長男ミニっち2歳半の頃【写真:荒川祐史】

 SNSでは自身を「母ちゃん」と呼ぶアンナさんは「息子は本当に愛おしくて仕方ないんですけど、悪いことをしたら『コラァ!? 何やってんだ!?』って叱ります(笑)」と肝っ玉母さんぶりを発揮。「時折、息子に言われるんです。『ママ、その言葉、悪いよ』って(笑)。かわいいと思った5分後にはイライラする毎日で」と笑います。

 ミニっちを出産した直後には想像すらできなかった幸せがあふれる毎日。「絶望していた自分に『大丈夫。いい子に育つから安心して』と声をかけてあげたいですね」。とはいえ、幸せな時間ばかりではなく、障がいがあることについて心痛める経験も重ねてきました。最近もこんなことがあったとか。

「公園で同じ年くらいの子たちに『なんで手がないの?』って質問攻めにされている光景をよく目にします。家に戻ってから『さっき手のこと聞かれてたけど大丈夫? なんて答えたの?」って聞くと「うん。ないの、だけ言った。悲しかった」って。心のケアはしっかりしたいので『悲しいかもしれないけど、ママとパパはその手が大好きだから、もし悲しい気持ちになったらちゃんと言ってね』と伝えます。

 成長するにつれ、右手のことを聞かれると『悲しい』という気持ちが出てきたんですよね。スクールで手をつなぐときも右手は嫌だと言われることもあるみたい。ただ、子どもの感性はそれぞれで、怖いと思う子がいることは仕方ない。逆に息子が誰かを傷つけるようなことを言ってしまうときもあると思うので、そこに抗議するのは少し違う気がするんです。だから、『ママ、こっちの手、好き?』と聞かれたら『大好き過ぎてヤバイよ!』ってギュッと抱きしめています。

 ただし、息子が眠くてイライラしているときに、いつもはできることなのに『こっちの手がないからできない!』ってグズるときがあって。そういうときは『手のせいにしない! 眠いだけでしょ』と厳しく接します。何でも上手にできるようになったのを知っているからこそ、言い訳にしてほしくないんです」

 美馬家の教育方針で、最も重視するのは「心を育てること」。「他者を人として尊敬できる心を持ってほしい」と願います。

「心を育ててあげないと、どんなにいい環境を作り、教育を授けたとしても意味がない、と私たち夫婦は考えています。周囲の人を思いやったり尊敬したり感謝したり、大人になって一番大事なのはそういう心だと。子どもの心を育てるのは親であり、近くにいる大人の役目。2人目を産んでも、愛情をもって心を育てられる。そう思えたんです」

 美馬家に第2子を迎える準備が整いました。

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)