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「構造的弱者」への眼差し訴えた東大・上野千鶴子名誉教授の祝辞
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“勝ち組”の「東大生」であっても社会構造の中での“弱者”になることも
続いて、東大生らが集団で同世代の女性を性的に陵辱した事件を題材にした小説を取り上げ、いま世間が、「東大男子」をそのような目で見ていることを指摘する。当然、入学したばかりの男子を非難したわけではない。本人の価値観や言動に関係なく、世間からネガティブなレッテルを貼られてしまうことが「東大男子」にだってあるという指摘だ。
レッテルを引き剥がしたいところだが、東大には東大女子が加入できないサークルが多数あることも事実であり、それ自体が「東大憲章」の精神に反すると断じる。そこから東大内部にある構造的性的非対称性に踏み込む。東大を含めて社会のいたるところで「隠れた性差別」が横行していると喝破する。
社会構造の奥深くに根付いているそのような差別を掘り起こし、議論を巻き起こしていくことに、上野さん本人の問題意識はあったと、自らの学者人生を振り返る。だから「女性学」という新しい学問をつくった。あくことなき好奇心と社会の不公正に対する怒りがその原動力だった。
〈既存の学問を学ぶだけでなく、現実社会を直視して、積極的に新しい学問をつくりなさい。新しいビジネスをつくることだけが「ベンチャー」ではない。〉というメッセージは、新入生のみならず、劣化していく日本の大学全体にとって必要な訴えだと私は感じる。
世間的には“勝ち組”と思われる「東大生」であっても、それが「東大女子」であろうが「東大男子」であろうが、“差別される側”になることがある。社会構造の中での“弱者”になってしまうことがある。
そのうえで、〈ということは、いまそこにいる“弱者”は、もしかしたら“あなた”だったのかもしれないのですよ。その可能性はほとんど紙一重だったのかもしれないのですよ〉と学生たちに気付かせる。見事な論理展開である。
続く「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください」という一見突き放したようなフレーズに、その切実な思いが込められている。