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おんぶという選択肢も 被災時に赤ちゃんと避難するにはどうする?

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

教えてくれた人:鈴木 美香

 平成は、多くの自然災害に見舞われた時代ともいえます。相次ぐ自然災害から身を守るには、日ごろの備えと想像力が重要になります。もし、避難が必要になり、家から赤ちゃんと一緒に避難するとなったら、どうしますか? ベビーカーは使えない可能性が高い。だっこ? おんぶ? 歩行前の小さな子どもとはどのように一緒に逃げるのが良いでしょうか。平成が終わる前に、改めて考えていきたいと思います。だっことおんぶの研究所で多くの母親に指導している鈴木美香さんに聞きました。
 前回の1回目は、首がすわる前の赤ちゃんについて紹介しましたが、2回目の今回は生後3か月以降の首がすわった赤ちゃんから抱っこを必要とする年齢までの子との避難について考えます。

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鈴木さんが推奨する高い位置でのおんぶ。子どもも重心が前になりやすく、しがみつく姿勢になりやすい【写真提供:だっことおんぶの研究所】
鈴木さんが推奨する高い位置でのおんぶ。子どもも重心が前になりやすく、しがみつく姿勢になりやすい【写真提供:だっことおんぶの研究所】

選択は状況で変わるが、おんぶは被災時に動きやすいことも

 避難が必要となった際、だっこにするかおんぶにするかは、悩むところです。

「心情的にお子さんを前に抱えたいと思う親御さんは多いでしょう。家庭環境や災害状況によって、そのときどきでベストな選択は変わってくることは大前提です。その上で首がすわれば、道具によってはおんぶできる可能性が高いので、両手が自由に使えて動きやすい、おんぶの可能性も選択肢に入れてほしいと思います」と鈴木さん。

 足元が悪い中、もし転倒してしまったとき、前に転ぶほうが多いかもしれません。また、避難中にどこかによじ登ったり降りたりするときに、赤ちゃんを前に抱えていると動きが制限される可能性もあります。

「私を含め現代社会は後方に対する感覚が、昔の日本人より衰えているように思います。小さなお子さんと平日の日中被災された場合、恐らく一緒にいるのはお母さんというご家庭が多いと思うのですが、今のお母さんたちは日常でさえもおんぶが怖いと感じている方が多いようです。災害のときだけおんぶをするというと逆に危険なため、普段から訓練しておくことが大切です」と普段からおんぶにも慣れておくことを指摘します。

“高さ”と“密着”を意識すればおんぶは格段に楽になる

 鈴木さんにおんぶのコツと基本を聞きました。「安全で動きやすいおんぶのポイントは、高さと密着にあります」という鈴木さんは、実は予備校で物理を教える理科の先生。力学的な観点からみても、昔ながらのおんぶは理に適っているといいます。

 まずは密着。
「体感的にわかる方も多いと思いますが、重いものが自分にぶら下がって振られると、支えにくくはないでしょうか。慣性力、遠心力が原因なのですが、密着して親子の重心が近くなるとその力が弱まります。例えば、重いものを持っているのに、急いで走らないといけない場合、無意識に荷物を胸の前で抱えて走っていると思います。人間は自然と胸の高い位置で密着するように重いものを持ってくると、楽に感じられることを知っています」

 そして、高さ。
「例えば、登山リュックにものを詰める際、高い位置に重いものをいれると軽くなる、と聞いたことがある人も多いと思います。それは実際に軽くなっているわけではなく、高いところに重いものがあると次の動作がしやすいためです。また少し前傾になることで、親子の重心の位置が重なり、軽く感じやすくなります」

 日常生活をしていると下のほうに重いものをいれる習慣がついていますが、それは安定性を求めてのこと。“安定する”ということは“動きにくさ”に繋がるため、普段家事をしながら子どもを抱いたりおんぶしている場合にも、身体の上部にいたほうが動きやすく体力の消耗を防げるということです。

「昔の日本人は高い位置で子どもを背負っていたようです。高さと密着の関係を理解していたかはわかりませんが、自然と動きやすいことを知っていたとも言えますよね」と鈴木さん。

 おんぶする大人の体への負担の面から考えて、高さと密着が大切とのことですが、赤ちゃんにとってもメリットがあるそうです。親と同じ目線になる(共視)、親の呼吸や温もりが感じられる、赤ちゃん自身の反応をすぐ察知してもらえるなど、高い位置に赤ん坊がいることでコミュニケーションが円滑に図れます。そして、防災の観点から見ても、避難をしながら、子どもの状態を常に確認しやすいのはとても大切なこと。また高くおんぶする姿勢は、赤ちゃんが自らしがみつくことを促す側面も。