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認知症の父から異臭…入浴拒否が始まった アラフィフ娘が感じた介護との向き合い方

公開日:  /  更新日:

著者:和栗 恵

「お父さん、もう本当に臭くて」と母 簡単な日常行為すらできなくなる

 これまで生活の中で簡単にできていた日常の行為を拒否したり、段取り良くできなくなること。記憶障害や実行機能障害など、認知症の症状のひとつと言われています。

「入浴」という行為は、着替えやタオルの準備をし、風呂場に行き、服を脱ぎ、シャワーで身体を軽く流してから入浴し、身体や髪を洗い、水気を切って風呂場を出て、タオルで拭き、新しい服に着替える……このように、本当に様々な動作を必要とします。

 しかし、認知症が進んでくると、“ごくあたりまえ”な動作ですら、失敗することが多くなってくるのです。

 パンツを脱ぎ忘れたまま、シャワーを浴びてしまい、悲しい気分になった。

 タオルできれいに拭きとる前にシャツを着てしまい、不快感を覚えてしまった。

 こうした「失敗」は、「イヤな経験」として、認知症患者の意識に残るのだといいます。そして、このような失敗が重なっていくうちに「風呂=不快なもの」と認識するようになり、入浴を嫌がるようになるというのです

「お父さん、ひどいときには何日も何日もお風呂入ってくれないのよ。もう本当に臭くてひどい臭いになっているのに!」と母は嘆きますが、母が父に付き添って入浴することが出来ない以上(我が家の両親は、決して仲が良くありません・笑)、放置をするしかありません。

「孫が来るかも」で風呂問題は解消 しかし洗濯物は相変わらず

 汚れた肌、洗濯もせず何度も着ている衣類から放たれる悪臭は、蒸し暑さも手伝って嫌がおうにも漂ってきます。これが、介護を担う母にとってはまるで地獄のようだといいます。なんとか対策をしなければ――

「もしかしたら今日、〇〇ちゃん(孫)が突然、遊びに来るかもしれないわよ。失礼のないように、お風呂に入って身体をきれいにしてきたら?」

 私と母が相談の上に考えた対策。それが、上記のような言葉を父に投げかけることでした。認知症も後期に入ると誰が誰やらわからなくなってしまうようですが、中期にいる父はまだ判断ができるようです。「大好きな孫と会えるかもしれない」そうした喜びを感じさせること。これで、お風呂に入らせることは成功しました。

 それでも、洗濯ものに関してはまるで意識が及ばないようで、脱いだものを段ボール箱に入れ、箱から出しては着るの繰り返し。片方が行方不明の靴下を探してウロウロと部屋の中を歩きまわる父を見て、しみじみと感じました。

「ああ……。バリバリと仕事をし、私たち家族を楽しませてくれたあの頃のお父さんは、もういないのだ」と。