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中学受験で息子が本命校に合格するも…入学説明会で母の目の前が真っ暗になった理由

公開日:  /  更新日:

著者:杠 ともえ

「まずはお祝いの言葉が欲しかった」…親の本音

「皆様、中学受験、大変お疲れ様でございました!」

 これが校長先生の第一声でした。長い受験期間、子どもが大きな試練を乗り越えるために、すべての親が精神面と健康面のサポートに心を砕いてきたことでしょう。私にとっては、このねぎらいの言葉はとても心に響きました。

 続いて、講堂に集まったほとんどの親は、定番の祝辞を待っていたに違いありません。ところが期待に反して、先生の話は意外な方向に進みます。

「本校では中等部の入試が無事終わりましたが、高校3年生が大学受験の真っ只中にいます。お父さん、お母さんが高校生だった30年ほど前は、1浪2浪を経て大学に合格することが珍しくはなかったかもしれません。しかし、今は時代が違います。親御さんはご自分の意識を改革してください」

 お祝いの言葉もなく、校長先生から出たのは6年後の大学受験の話。筆者は高校と大学でそれぞれ受験を経験し、部活動と受験勉強に追われる慌ただしい青春時代を過ごしました。息子の中学受験に挑んだ背景には、「息子には高校受験の必要がない中高一貫校で思い切り青春を謳歌してほしい」という思いがあったのです。

「今、必死になって大学受験と戦っている高校3年生は、6年後のご子息の姿です!」

 親に向かって放たれた校長先生の鋭い言葉。息子が志望校に合格した喜びで膨らんでいた私の胸は一気にしぼみ、顔面蒼白になりました。

「本校では6年間、責任を持ってご子息をお預かりします。先生方の教育方針に従っていただければ、志望大学の現役合格を保証します。早速、ご子息には教室で課題を配布しています。ご自宅に戻ったら問題に取り組んでいただき、入学式のあとに提出してください」

「はぁ~」……親たちの口から大きなため息が漏れました。中学を受験する前、学校説明会に訪れた頃は、受験生と保護者は“お客様”として学校側から丁寧なもてなしを受けました。しかし、合格すると状況は一変。私たちはすで“身内”であり、校長先生の口調には遠慮がまったくありません。

「大学受験に向けて、塾に通い始めたお子さんがいると思います。しかし、本校のカリキュラムをきちんとこなせば、塾は不要です。もちろん、『授業だけでは物足りない』と感じる方は、どんどん学外の教育機関を利用してください」

学校と家庭の同盟締結!? 息子を新たな戦いに送り出す日

 私が経験した入学説明会(学校招集日)は、「志望大学に現役合格という共通の目標を掲げて学校と家庭が同盟を結んだ日」といっても過言ではありませんでした。小学校卒業前にもかかわらず、入学予定者のうち何人かは6年後の大学受験に向けて塾に通い始め戦闘モードに突入している……その事実を校長先生から明かされて、私は目の前が真っ暗になりました。

「言い忘れていました。最後になりましたが、皆さん、合格おめでとうございます!」

 校長先生から祝福の言葉をいただいても、突き付けられた厳しい現実に凍り付いた筆者の心が解けることはありませんでした。

 息子の進学先としてこの学校を選んだ理由は、校長先生という百戦錬磨の司令官のもとで進学実績を着実に上げている校風に惹かれたからでした。しかし、中学校に入学する前から、息子を大学受験という戦地に再び送り出すことになるとは、まったく予想していませんでした。こうして親の新たな苦悩が、学校招集日から始まったのでした。

(杠 ともえ)

杠 ともえ(あかなし・ともえ)

大学卒業後、メーカーで半導体の営業、アメリカ留学、番組制作AD、編集記者、ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士、保育士などを経験。自身は小学校から大学まで、すべて地方の公立校卒。一人息子が都内の私立中高一貫・男子校に在学中。女子高出身で、さらに兄弟がいない環境で育ったため、摩訶不思議な男子の生態に翻弄される日々を過ごす。