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陸上桐生祥秀 ライバルの引退レースをお膳立てする粋な計らい「涙なしには見られない」
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アスリートが成長する過程で欠かせないのがライバルの存在。敵意むき出しで立ち向かう選手、相手の実力を認めて切磋琢磨していく選手など、相手への向き合い方はさまざまです。「Hint-Pot スポーツSNS調査隊」は今回、そんなライバルに最大限のリスペクトを払った陸上男子短距離の桐生祥秀選手(日本生命)に注目。中学時代のライバルへ、粋な“引退レース”の舞台を用意した様子をSNSで公開し、話題になっています。
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2017年に100メートルで日本勢の初の9秒台をマークしたトップスプリンター
京都・洛南高校時代に出場した2013年の「第47回織田幹雄記念国際陸上競技大会」(以下織田記念)男子100メートルで、日本歴代2位のタイムとなる10秒01をマークして一躍日本陸上短距離界のトップ選手となった桐生選手。東洋大学進学後は2016年リオデジャネイロ五輪にも出場し、2017年9月の「日本学生陸上競技対校選手権大会」の100メートル決勝では日本勢初の9秒台となる9秒98の日本新記録を樹立して、日本屈指のトップスプリンターになりました。
大学卒業後は日本生命の所属となり、2020年の「第104回日本陸上競技選手権大会」の男子100メートルで優勝。2021年の東京五輪には陸上男子4×100メートルのリレーメンバーとして出場を果たしましたが、第1走者の多田修平選手と第2走者の山懸亮太選手のバトンパスがうまくいかずチームは失格に。第3走者の桐生選手が多田選手を励ましたシーンは記憶に新しいところです。
中学時代に圧倒的な差をつけられたライバルの「引退レース」
彦根市立南中学校(滋賀県)への進学を機に陸上を始めた桐生選手は、3年時の「全国中学校体育大会」(全中)男子200メートル決勝に出場し、当時の中学歴代6位のタイムとなる21秒61をマーク。しかし、21秒18の中学新記録で優勝した伊豆市立修善寺中学校(静岡県)の日吉克実選手に圧倒的な差をつけられ、2位に終わりました。日吉選手は「桐生が全中で勝てなかった相手」としてファンの間ではよく知られており、桐生選手にとっては当時の最大のライバルでもありました。
そんな日吉さんは高校以降に伸び悩み、2019年シーズン限りで現役引退を発表。2021年に受験した日本競輪養成所の入所試験に合格し、競輪選手として新たな出発を図ることになりました。しかし、心残りだったのが、引退レースとして決めていた大会が中止となってしまったことだったそう。そこで、入所試験合格が決まった直後に桐生選手に連絡を入れました。
桐生選手は50メートル走をベースにした新たなスプリント種目の「スプリント50」を立ち上げ、子どもから大人までを対象に全国に展開中。日吉さんはそこで桐生選手と「一緒に走りたい。それを本当の陸上の引退レースにしたいと思ってる」と相談しました。
この話を受けた桐生選手は「やろ! 日吉との最後のレース実現させる!」と即答。すぐに日程を調整し、日吉さんの「引退レース」の舞台を用意しました。
中学時代から変わらぬ緊張感の中で迎えたスタート。まず好ダッシュで飛び出したのは日吉さんでしたが、中盤以降に桐生選手が逆転してフィニッシュしました。桐生選手のタイムは6秒48で、遅れた日吉さんは6秒77。「そんなもんかな~」と振り返った日吉さんは「本当にありがとうございました」と充実した表情で桐生選手に感謝の言葉を口にしました。
この引退レースの動画が桐生選手のYouTubeチャンネル「桐生祥秀 / Yoshihide Kiryu Channel」で公開されると、ファンからは「一緒に走る姿を見ることができて良かった」「胸が熱くなった」「涙なしでは見られない」といった感動のメッセージが。それ以外にも「終わりは始まり」「頑張れ未来の競輪王」など、日吉さんの新天地での活躍を願う声も多く寄せられています。
レース後、桐生選手は「日吉 最後の引退レース二人で走れてよかったよ。お疲れ様 ありがとう。次の道も頑張れ」とツイート。これまで第一線で活躍してきた日吉さんをねぎらい、次のステージでの飛躍を期待しています。
桐生選手は9日にオーストラリア・ブリスベンで行われた大会で今シーズン最初のレースを走り、次走は4月29日の「織田記念」を予定しています。一方の日吉さんは競輪選手としてのデビューに向けて、養成所での生活が始まります。しのぎを削ったライバルが歩むそれぞれの道。2人のさらなる活躍を期待したいですね。
(Hint-Pot編集部)