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“乃木坂”は江戸時代の幽霊坂だった? 「坂」の名前とまつわる地名の由来をプロが解説
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教えてくれた人:日本地名研究所
日常生活の中で何気なく目にしている“地名”。住所表示に欠かせないものですが、その由来や語源を考えたことはあるでしょうか。「Hint-Pot」では、発足から40年以上の歴史を誇る日本地名研究所(神奈川県川崎市)の協力のもと、地名の豆知識を紹介する新企画「Hint-Pot 地名探検隊」をスタート。記念すべき第1回は、現在の日本アイドル界を席巻する乃木坂46や日向坂46でも使われている「坂」の由来を深掘りします。普段よく見かける「坂」にはどんな意味が込められているのでしょう。
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坂の下と上をつなぐ道が「サカ」 異次元の空間にもつながっている?
日本の地形は元々山が近くにあり、どこでも坂を見る機会があります。東京も例に漏れず、坂の町です。
東京都港区の「乃木坂」は江戸時代に“幽霊坂”と呼ばれ、その由来はうら寂しい場所だったからだそう。この坂の近くに住んでいたのが日露戦争などで活躍した乃木希典将軍です。大正元年の殉職後、その徳を偲んだ港区区議会が議決して坂の名前を「乃木坂」にしたといわれています。
近くには「三分坂(さんぶざか)」という坂も。諸説ありますが、急峻なため荷車が上りきれず、坂下で待っていた助っ人が駄賃として三歩(分)をもらい、坂上まで押したことが由来とされています。ちなみにアイドルグループの日向坂(ひなたざか)46の名前は、東京都港区三田にある「日向坂(ひゅうがざか)」に由来しているそうです。
さて、なぜ「サカ(坂)」と呼ぶのでしょう。サカは坂の下と上の地をつなぐ道のことで、「サカイ(境)」の意味。そのうち「イ」が欠落し、サカと呼ばれるようになったと考えられています。
坂を挟む両側の地も所有者は別の場合が多く、また大きな坂は村境として位置付けられている例が各所で見られます。サカといえば傾斜のある道路を意味しますが、日常でも「サカになっている」など傾斜している状態を示す表現の一つです。
東京に幽霊坂は9か所あったといいます。坂の途中に、地蔵尊や不動明王、馬頭観音などを祀る例も多数。坂は心意的に異次元の空間をつなぐもので、その中間は極めて曖昧な、おどろおどろしい空間として人々の目に映っていたといわれます。坂の名前に暗闇や狐坂などが付けられているのも、そのような心象面が働いたと思われます。
繁華街でよく見かける「栄」の地名 昔は「境目」の地域に多かった?
坂の下の土地は、「坂本」「坂下」(サカモト)とも書きます。坂本、坂下という地名は全国各地にありますが、坂上という地名は多くありません。これは街道の坂本に宿場など村の主要な部分が集中していたことによります。
全国には坂本・坂元が40か所以上あります。群馬県安中市松井田町坂本には、中山道随一の難所近くに宿場町が形成されていました。滋賀県大津市坂本は比叡山の麓にあり、全国の日吉神社の総社・日吉大社があります。
また、「栄町」などで使われる「栄(サカエ)」も「サカイ」から変わったとされる地名です。その地が栄えることを願っての命名であることは十分理解できますが、「栄」と呼ばれる前の地名はほとんどが旧村境に位置付いていることは意外と知られていません。
大阪府堺市は、摂津国と和泉国の境にできた町で、堺という地名もそれに由来しています。中世の自由都市として栄え、商人と港の町として発展しました。「サカ」と「サカイ」が相互に関係していることは面白いですね。
(Hint-Pot編集部)