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タワーマンションの防災備蓄品 買い替え時のトラブルはどうすればいい? 不動産のプロが解説
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教えてくれた人:姉帯 裕樹
2011年に発生した東日本大震災の経験を経て、理事会による乾パンや水の備蓄が行われるなど、各マンションで災害に対する備えが進みました。しかし、10年以上の月日が経ち備蓄を見直す時期に来ているなか、さまざまな問題も起きている様子。それは、ラグジュアリーさを売りにしているタワーマンションであっても同様のようです。アドバイスは東京・中目黒で「コレカライフ不動産」を営む不動産のプロ、姉帯裕樹さんです。
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災害対策用の備蓄品は誰のもの?
お話を聞かせてくれたのは、東京都内のタワマンに住む植田杏子さん(仮名・62歳)。今から8年ほど前に現在お住まいの部屋を購入し、ここを終の棲家と決め、夫とふたり暮らしを満喫しています。取り立てて大きな問題もなく暮らしてきた杏子さんでしたが、ここにきてひとつ、気になることが起こりました。
「昨秋、マンションの理事会が開かれた際、備蓄品を買い替えるという話が出ました。もったいないので、廃棄するのであれば組合員で分けてはどうかと提案したんですよ」
ところがその後、なんの連絡もないまま冬に。まさか古い水や乾パンを捨ててしまったのでは? と不安になった杏子さんは、管理人に連絡をしたそう。すると「古いものは理事会で分けていましたよ」と、信じられない言葉が返ってきたのです。
「驚きというより、呆れた気持ちでいっぱいになりました。備蓄品は管理組合が購入したもの。そうであれば、権利はすべての組合員にあるはずです。それなのに、現在の理事だけで分けるなんて……そんな勝手をしてもいいものなのでしょうか」
どうしても気持ちが収まらず、杏子さんは理事長に苦情を言いに行きました。しかし、なぜ理事だけで分けたのかは適当にはぐらかされるばかり。挙句「10年も前の水と乾パンをもらって、何に使うつもりだったの?」と言われてしまいました。
「あまりに腹が立ったので『では、あなた方は何に使うつもりだったんですか?』と聞き返しました。しかし、それに対する返答はなく『もう終わったことだから』と追い返されてしまいました。乾パンを使うレシピがネット上にたくさん上がっていたのを見て、分けてもらうことを楽しみにしていたのに、なぜか私のほうが非常識みたいな目で見られるようになってしまって……悔しいです」
マンションでの備蓄品の廃棄にはさまざまな問題が 「産業廃棄物」として処理が必要なことも
杏子さんの悩みについて、中目黒「コレカライフ不動産」の姉帯裕樹さんにお答えいただきました。
「タワマンに限らず“あるある”な問題ですね。まず食料、日用品は各家庭で備蓄するのが基本ですが、マンションで備蓄しているものについては東日本大震災から10年経って、分配するか捨てるか……と考えているところも多いのではないでしょうか。ただ、非常用として購入した備蓄品は『産業廃棄物』として処理する必要があるため、廃棄するのにもお金がかかってしまいます。また、食品を廃棄するのはSDGsの観点から問題になるため、フードバンクに寄付する場合も多いようです」
しかし、今回問題になっているのは理事会内だけで「勝手に分けた」こと。姉帯さんによると、解決するのはかなり難しい問題なのだそう。
「そもそも備蓄品がどの程度の量あったかわかりませんし、あったとしてもタワマンという大規模住居であることを考えると、住人全員に分けられるほどはなかったのでは? と思います。もちろん欲しい人を募り、その人数に合わせて分配すれば良かったのですが、手間暇を考えると理事会役員に相当な負担がかかることになるでしょう。あくまでも想像ですが、そうしたことを考えた結果、理事だけで分けようということになったと考えられます」
姉帯さんは杏子さんの気持ちに寄り添いつつも、今回は割り切って諦めたほうがいいとすすめています。また、エレベーター内に防災キャビネットや非常用トイレになる防災スツールを設置するマンションも増加中。姉帯さんは「そうした中身の消費期限の確認も忘れずに行いましょう!」と呼びかけています。
(和栗 恵)
姉帯 裕樹(あねたい・ひろき)
「株式会社ジュネクス」代表取締役。宅地建物取引士の資格を持ち、不動産取り扱い経験は20年以上を数える。独立した現在は目黒区中目黒で不動産の賃貸、売買、管理を扱う「コレカライフ不動産」として営業中。趣味はおいしいラーメンの食べ歩き。