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新宿御苑のカブトムシ大量発生、なぜ起きた? 夏の怪現象を検証 背景にあった意外な理由

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム

新宿御苑のカブトムシは子どもたちにも大人気だった【写真:Hint-Pot編集部】
新宿御苑のカブトムシは子どもたちにも大人気だった【写真:Hint-Pot編集部】

 今夏大きな話題になったのが、カブトムシの大量発生です。中でも新宿御苑では都心にもかかわらず、一時は1本の木に50匹近いカブトムシが集まり、樹液を吸っている姿がSNS上に投稿され、“伝説の木出現”などと注目を集めました。いったい、都会のオアシスに何が起こったのでしょうか。取材を進めると意外な事実が浮かび上がってきました。

 ◇ ◇ ◇

都会のオアシスに突如出現 「#伝説の木」と話題になったが…

「新宿御苑、伝説超えてた…」「今年の新宿御苑カブトムシの数ヤバい」

 夏休み真っ只中、SNS上では新宿御苑のカブトムシの異常発生ぶりを伝える動画や写真が大きな注目を集めました。今年は全国各地でカブトムシの大量発生が報告されましたが、ここは“都心の森”です。新宿駅南口から徒歩10分ほど。見上げる先には、都庁を始めとする西新宿の高層ビル群が立ち並びます。

 拡散された動画や写真を見ると、木にはカブトムシがびっしりです。白昼、樹液を巡ってオス同士がケンカする様子も見てとれます。ネット上では、「#伝説の木」とのハッシュタグがつくほど脚光を浴び、カブトムシ目当てに新宿御苑を訪れる親子連れも相次ぎました。

 いったい、なぜカブトムシが大量発生したのでしょうか。

 新宿御苑管理事務所の担当者は「今年異常に大量発生をしている認識ではなく、例年は分散しており、園内の幅広い対象木で見ることができます。ただ、今年は見やすいところに1か所に集まったために大量発生に見えているという認識です。というのも、毎年園内ではカブトムシはかなり発生しているので、幼虫も成虫も結構な数が発生しています。今年は確かに園内の見やすい場所の樹木にたくさんついて、かなりの数が集まっており、特定の木に集中している状況です」と話しました。

 カブトムシが集まるのは、クヌギやコナラなどの樹木ですが、今年は1か所に大量に集まったため、「異常発生」と見えたのではないかという認識を示しました。

 では、なぜ特定の木だけにカブトムシが集まったのでしょうか。

「一つには、木が何かしらかの攻撃を受け、傷ついた樹皮から樹液を出しているため、それに集まってくるカブトムシ、スズメバチがたくさんいる状況でした」と説明しました。

 その原因について、ナラ枯れの可能性はあるのでしょうか。

「集まっている樹種はクヌギやコナラ、シラカシが多いので、その樹種から推測すると、ナラ枯れが一つの原因として考えられるのかもしれないです」と担当者は話しました。

 ナラ枯れとは、カシノナガキクイムシ(カシナガ)が媒介するナラ菌により、樹木が損傷を受け、枯れてしまう状態を指します。感染力は強く、林野庁では2020年度に被害が急増したとして、ナラ枯れを防除するための対策を公開しています。新宿御苑では令和元年度に初めて被害が確認され、以後、年間10本前後のペースで樹木が枯死している状況だといいます。

話題になったクヌギにナラ枯れの兆候 伐採の可能性も

クヌギの樹液に群がるカブトムシ【写真:Hint-Pot編集部】
クヌギの樹液に群がるカブトムシ【写真:Hint-Pot編集部】

 ナラ枯れをどのように判断されているのでしょうか。

「フラスという木くずの発生の有無を見ています。生きている木の中にキクイムシが入る状態であれば、ナラ枯れと判断します。フラスが出ると、あっという間に枯死する樹木もあります。樹種によっては1年を待たずに、次の夏になると全部の葉っぱが枯れる状況になります。夏に真っ茶色の葉っぱがついているので分かりやすいです」

 フラスが出る穴は1~2ミリほどです。クヌギのように硬く、凹凸のある樹皮の隙間を、1本1本、丹念に探すのは根気のいる作業です。しかし、「状態を見極め、早めに対処しないと被害が広がってしまいます」と続けました。

 新宿御苑周辺には代々木公園や明治神宮、新宿中央公園など、緑豊かな場所が点在しています。そこにもカブトムシが生息しているところはあります。樹木から樹木へ、感染が拡大する可能性があります。

 今回、カブトムシが特に大量に集まることで話題になった1本のクヌギがあります。木はスズメバチも呼び寄せていたため、周囲は三角コーンで覆われて距離を取って見学するように対策されていました。このクヌギについて、現在の状態を聞きました。

「これまでフラスは見られておらず、つい先日フラスが出始めました。樹齢は20~30年以上と推定されます。また、ナラ枯れは弱っている木や、老齢木がかかりやすいといわれていますので、被害木の可能性が高く、このまま被害が進むと枯死する可能性もあります。最悪の場合、伐採の可能性も視野に入れながら、今後も経過を注視していく予定」とのことです。

 ナラ枯れを防ぐには、樹幹注入という樹木の抵抗力を高める方法がありますが、7月末までに対策を済ませたほうが効果が高いため、「この木は樹幹注入を行ったとしても助けられないかもしれない」といいます。

 新宿御苑は園内での動植物の採取や持ち込み、エサやりは禁止されています。そのため、ピーク時にもカブトムシが極端に減ることはなく、観察するならもってこいの一面があります。クヌギは雑木林の「母と子の森」エリアを中心に30~40本、シラカシは園内全域に500本ほどが存在しています。腐葉土も豊富にあり、幼虫が育つ環境も自然サイクルとしてでき上がっているため、来年もカブトムシが見られるでしょう。

 一方で、今年と同じように1か所に大量のカブトムシが見られる状況は続くのでしょうか。

「対象木は多いので、バックヤードも含めて幼虫がたくさん育っている新宿御苑の環境としては、ナラ枯れが終わるまではこの状態が少し見られることも考えられます」と見通しています。

 ただし、それは新宿御苑にとってはあまり喜ばしいことではありません。「被害がずっと起きるというのはなるべく避けたい。早めに伝染性の樹木の病気は収まれば」と早期の終息を願いました。

(Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム)