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「ささくれができると親不孝」といわれるのはなぜ? 言い伝えの真意とは
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寒くなると手荒れが気になる人も多いでしょう。とくに悩ましいのは、いつの間にか指先にできる「ささくれ」です。古くから、ささくれができると「親不孝になる」や「親不孝の証」といわれることがありますが、なぜなのでしょうか。日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は、ささくれにまつわる言い伝えを紹介します。
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ささくれは爪周りの皮膚が乾燥してむける状態
ささくれは、「さかむけ」と呼ぶこともあり、主に手の爪周囲の皮膚がむける状態をいいます。指にささくれができると、衣類などにひっかけたり、無理に取ろうとして血が出て悪化したりすることも。
ささくれが起こる原因は、爪周りの皮膚の水分や皮脂が不足し、乾燥することにあるといわれています。水分や皮脂が足りないと、皮膚は乾燥して硬くなってしまうため、指先に衝撃が加わると細かなひび割れが起こりやすくなります。ひび割れした皮膚がむけてしまったのが、ささくれです。
したがって、ささくれができることと親が不幸になる関係を裏付ける科学的な根拠はないといえるでしょう。しかし「ささくれができると親不孝になる」といった言い伝えがあるのには、ほかに理由があるようです。
ささくれができると親に迷惑をかけるのが理由?
「ささくれができると親不孝」の由来は、諸説ありますが、ささくれができると「親に迷惑をかけることになるから」という考えが基にあるといえます。
もっとも広く知られている理由に、「親の水仕事を手伝えないから」という説があります。現代のように洗濯機や食洗機など便利な家電がなかった昔は、子どもたちが水汲みや掃除、洗濯、炊事といった水仕事を手伝っていました。指のささくれがひどくなると、痛みで思うように手伝いができないことから、親の負担が増えて困ってしまう状況になります。そのことから「親不孝」につながったといわれています。
また、「不摂生な生活をしている」ことへの見直しという説もあります。ささくれができるのは、夜更かしや偏った食事などが原因とされ、不摂生な生活を続けていればいずれ体調を崩し、親に迷惑をかけると考えられたことが「親不孝」となったようです。地域によっては「親不孝をしているから、ささくれができる」ということも。いずれにしても、規則正しい生活をしようとする意味合いが強いといえます。
ささくれは、始めは小さな傷ですが、ひどくなると範囲が広がり、傷みが増して治りにくくなります。また、指先の傷から菌が侵入して、感染症につながるリスクも。小さな傷だからといって軽く考えず、気をつけるようにといった戒めから「親不孝」の言い伝えにつながったともいえるでしょう。
現代の暮らしのなかでも、指先の皮膚は乾燥しやすく、ささくれができやすい環境にあります。手洗いや消毒、洗剤などの刺激、血行不良といった影響に加え、スマートフォンやパソコン操作など指先を使う機会も多いでしょう。ささくれができた場合は、無理に引っ張らず、ハサミや爪切りなどを使って根元からカットすると良いそうです。手指の水分や皮脂を十分に保ち、悪化させないようにいたわっていきたいですね。
(鶴丸 和子)
鶴丸 和子(つるまる・かずこ)
和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
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