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夜にまつわる言い伝え 「爪を切ってはいけない」「口笛を吹いてはいけない」のはなぜ?
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秋の夜長。日照時間が短くなり、夜の時間が長くなってきますが、古くから日本には、夜にやってはいけないことの言い伝えがあります。主に知られているのは「爪を切る」ことと、「口笛を吹く」こと。迷信と考えるか、行動の動機付けに使うかはそれぞれの判断として、なぜそういわれたのでしょうか? 日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は、夜にまつわる言い伝えを紹介しましょう。
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夜に爪を切ると…寿命が短くなる?
夜に爪を切ると「親の死に目に会えない」との話を聞いたことがあるでしょう。これは、戦国時代の「夜詰め」にルーツがあるといわれます。夜詰めとは、夜間に城を警備する重要な務めで、たとえ親に何があろうとも持ち場を離れることは許されませんでした。そこで、「夜に爪を切る」ことを「夜爪(よづめ)」から「夜詰め」に語呂合わせをして、タブーとしたようです。
また「よづめ」が「世詰め」とも書けることから、夜に爪を切ることは「世を詰める」こと、つまり「寿命が短くなる」との説も。その結果、親よりも先に亡くなってしまうので、親の死に目に会えないことにつながります。
それにしても、なぜ夜に爪を切ることを「不吉」としたのでしょうか。一説として、けがへの警鐘があったようです。そもそも、昔は爪切りといった道具はなく、小刀やハサミなどを使って爪を切っていたといわれています。しかも、現代のような電気もありません。夜に爪を切るとなると、ろうそくの薄暗い明りを頼りにしなければならず、刃物を使うのでけがにつながるおそれがありました。親から授かった大切な体に傷を付けるようなことはしない戒めとして、このような話が広まったともいわれています。
夜に口笛を吹くとやってくるもの
夜に口笛を吹くと「ヘビが出る」や「泥棒がやってくる」「幽霊が出る」「人さらいが来る」「嵐が起こる」など、地域や家庭によってさまざまな伝承がありますが、いずれも不吉なことがやってくる点では共通しています。
主な理由としては、「悪霊や鬼などを呼び出してしまうから」「人さらいや泥棒は夜に口笛でやりとりをしていたから」「ヘビ使いのようにヘビを引き寄せてしまうから」「魔が差すから」「風を呼ぶから」など、多様な理屈がいわれてきました。
このようにいろいろな話で夜に口笛を吹くことをタブーとした背景には、一説によると、古来、口笛は神様や精霊を招くパワーがあると考えられていたことにあるようです。神聖な行為だからこそ、邪悪なものが潜む夜に軽々しく行ってはいけないこととして受け継がれてきました。
一方で、単に子どもへのしつけの意味合いが強いとの説もあります。静かな夜に口笛を吹くことは近所迷惑になるので、子どもにさせないために、その地域ごとで昔作られた話が現代に伝わっているという見方です。
「夜に爪を切る」「夜に口笛を吹く」ことをやってはいけない理由に科学的な根拠はありませんが、先人から語り継がれてきた話として読み解いていくと、意外な発見があるかもしれません。
【参考】
「知れば恐ろしい 日本人の風習」千葉公慈著(河出文庫)
「吉を招く『言い伝え』縁起と俗信の謎学」岩井宏実著(青春出版社)
(鶴丸 和子)
鶴丸 和子(つるまる・かずこ)
和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
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