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「黒猫が道を横切ると不吉」といわれるのはなぜ 古代エジプトで崇められた存在 日本では?

公開日:  /  更新日:

著者:鶴丸 和子

黒猫が道を横切ると…(写真はイメージ)【写真:写真AC】
黒猫が道を横切ると…(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 ハロウィンのモチーフでは、魔女のパートナーとして登場する黒猫。「黒猫が道を横切ると不吉」との言い伝えもありますが、なぜでしょうか? 古来の伝承や風習、先人の知恵など、諸説に着目するこの連載。今回は、黒猫にまつわる言い伝えや由縁を紹介します。

 ◇ ◇ ◇

古代エジプトでは「神の化身」と崇められた存在

 元来、猫は古代エジプトで「神の化身」と信じられ、黒猫も同様に崇められた存在だったとか。世界各地に猫が住むようになると、ネズミを駆除する益獣として重宝されたようです。

 その一方で、猫は暗闇で行動したり、仕留めた獲物をもてあそんだりする習性や、犬と比べるとあまり人に懐かない性格から「不可解な生き物」といった印象を持たれる面もありました。

 神の化身や益獣から不吉な存在に変わってしまったのは、13世紀頃。ヨーロッパの中世期末になると、猫のなかでもとくに黒猫は「魔女の化身」といわれるようになりました。黒は暗闇や危険などを想起させる色として、迷信深い人たちは悪魔や魔女伝説と結びつけ、忌み嫌ったといいます。

 そうした背景から、欧米を中心に「黒猫が通り道を横切ると不幸が訪れる」や「自分の左側に黒猫を見かけると縁起が悪い」といった迷信が生まれたようです。道で黒猫を見たら「急いで道を変える」といった俗信も広まりました。

日本では黒猫は「吉の象徴」とも

「黒猫が道を横切ると不吉」という言い伝えは、海外での迷信が日本へ伝わり、広まったとの説があります。日本でも地域や年代によっては「黒猫が横切ったら、三歩下がると良い」との俗信を聞いたことがある人もいるでしょう。しかし、実際に不幸が訪れることはありません。同じヨーロッパでも英国では黒猫を「幸運の象徴」とし、航海中はネズミ捕りを兼ねて黒猫を1匹、同船させたといわれています。

 日本では古来、黒色には「魔除け」の力があると信じられ、邪気を払うものとして用いてきました。商売繁盛の縁起物として知られる「招き猫」のうち黒色は魔除け、厄除けの願いが込められたものです。また、「猫又」など猫にまつわる怪談もありますが、黒猫は「福猫」で、吉の象徴とされています。江戸時代には「病魔除け」として黒猫を飼う家もあったそうです。

 ちなみに、猫が日本にやってきたのは、およそ2000年前のこと。当初は奈良時代の頃といわれていましたが、近年、長崎県の遺跡から猫とみられる骨が発見され、弥生時代中期には存在していたとみられています。その神秘的な魅力で、古くから日本人の暮らしに寄り添ってきたのでしょう。

【参考】
「日本俗信辞典動物編」鈴木棠三著(角川書店刊)
「日本の迷信・妖怪事典1」高村忠範 文/絵(汐文社刊)
「黒猫マニアックス」黒猫愛好会編(白夜書房刊)
「アメリカの迷信さまざま」ジュリー・バチェラー、クローディア・ドリス著(北星堂出版刊)

(鶴丸 和子)

鶴丸 和子(つるまる・かずこ)

和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
インスタグラム:tsurumarukazu