仕事・人生
減少する街の書店の背景 元カリスマ書店員が語る書店だから味わえる「成功体験」とは
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ジャケ買いや、店頭ポップに惹かれて手に取るなど、書店でしか得られない本との出合い。活字離れといわれて久しく、ネット通販や電子書籍などの広がりから街の書店が減少しています。大手書店チェーンも閉店が相次ぐなど、規模の大小に限らない印象です。そこで、元書店員の鬼瓦レッドさんこと増山明子さんに、2回にわたってお話を聞きました。前編は、書店が減少している背景や、書店ならではの楽しみ方についてです。
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「通販が書店の敵というわけではない」 書店が減少している背景にあるもの
カリスマ書店員として鬼瓦レッドの愛称で親しまれ、多くのイベントやメディアを通じ、たくさんの本を熱く推している増山さん。現在は書店員の仕事からは離れていますが、出版プロデュースや書籍のプロモーションほか、個人的に本をすすめる活動を続けています。
日本出版インフラセンターの資料によると、日本の書店数は2003年の2万880店舗から2023年には1万918店舗となっており、20年でほぼ半減。ネット通販や電子書籍といった書籍販売の環境が変化していますが、意外にも増山さんは「通販が書店の敵というわけではない」と語ります。
「20年以上前は本屋で情報誌を買って、映画や舞台を観に行ったり、掲載されている店に行ったりするのが当たり前でした。それが今はSNSやソーシャルゲームなど、スマートフォンでなんでもできてしまう。テレビも同じかと思いますが、そうしたものとの“時間の奪い合い”のなかで、相対的に人が本に割く時間が減っているのが大きいと感じます」
また、近年の閉店の傾向として「商業施設の建て替えなどに伴って、廃業するケースも少なくありません」とのこと。経営の悪化などの一般的な要因以外にも、再開発や経年劣化による商業施設の建て替えが、老舗書店やチェーン展開する大手書店でも一部店舗を撤退するきっかけとなっているようです。
「なくても生きていけるけど…」 本から得られる豊かさ
情報誌がSNSなどに取って代わったなどの環境的な変化だけでなく、もともと書店には利益が出にくい構造があるといいます。本の原価は7~8割。1000円の本を売って、書店には200円しか残りません。
「東京都の最低賃金が時給1113円ですから、何冊売らないと人が雇えないのか? という問題になります。本を売る以外の何かを組み合わせないと、成り立たないんです。だからTSUTAYAさんのスターバックスとの取り組みなど、とても頭のいい手法だと思いました」
そのほかにも「最近は『棚貸し書店』も増えていて、一般の方などに棚を貸し出して書店体験をしてもらい、賃貸料をいただく。駐車場で駐車料を払ってもらうのと同じ感じで、スペースを活かした賢い方法だと思います」といい、従来の文具販売やイベント企画などに加えさまざまな工夫を凝らしていると増山さんは話します。
利幅の薄い業態でありながら書店が頑張る背景に、増山さんは、本だからこそ得られるものに対する思いがあると感じているそう。
「私が勤めていた明正堂書店の社長は、『本は頭の栄養』と言っていました。食べ物と違い、本はなくても生きていけるけど、豊かになれる。知識だけじゃなくて、何を読んでもというわけでもなく、“自分で選んだ本が読んだら楽しい”といった幸せ。しかも手元に置いて何度でも味わえます。そういう豊かさを感じられるものは、あまり多くはないですよね」