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「『もう愛情なんか』『別れてやる』と言うご夫婦が…」 全国初の入棺カフェで起こる「愛の可視化」とは
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終活が一般的になっても、自らの死と向き合うことに躊躇する人は少なくありません。そうしたなか、独自性ある和モダンの葬儀会館などで業界内外から注目を集める葬儀社かじや本店が、全国初の「入棺カフェ」を9月にオープン。新たな取り組みを始めた理由など、代表取締役の平野清隆さんと、同カフェに設置したファッション性の高い棺を制作したクリエイターの布施美佳子さんに、お話を伺いました。
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きっかけは「『カフェを経営しています』って言えたら、かっこいい(笑)」
千葉県富津市で「家族が集う別邸」をコンセプトにした和モダンの葬儀場や、特許を出願中の素焼きメッセージ骨壺「襷(たすき)」といった、通常の葬儀社とは一線を画す葬儀社かじや本店を営む平野さん。
ファッション性の高い棺で、ラフォーレ原宿をはじめ、多くのファッションビルでポップアップショップを展開し、最近多くのメディアに取り上げられている棺作家の布施さんを知ったのは、2年ほど前に掲載された記事がきっかけでした。
記事の内容は、布施さんが語った自分らしく最期のお別れをするために考えるべきことや、入棺体験によって得る人が多いポジティブな変化などについて。
「友人から記事を教えてもらい、すぐに布施さんに連絡をしてアトリエに会いに行きました。おもしろい人がいるなって、いずれ何か一緒にやりましょうと話していたんです」
布施さんもGRAVE TOKYOのブランドで、デザイン性の高い「インテリアになじむ骨壺」を手がけていた共通点もあるなか、なぜ入棺カフェを始めたのでしょう。平野さんは、本社スペースが空いていたことが理由のひとつだとしつつ、持ち前の明るい笑顔で意外なことを語り出します。
「いつも職業を聞かれて『葬儀屋です』って答えるんですけど、もっとかっこいい肩書きを言いたいなって。それで『カフェを経営しています』って言えたら、かっこいいと思ったんです(笑)。葬儀社らしいカフェって考えたとき、入棺カフェのアイデアが生まれました」
「悪ノリみたいに思われることが多いですが…」
完全予約制で料金は2000円ですが、「お客様が増えるほど、赤字になる(笑)」と言いつつ、千葉県富津市の町おこしの一環にもなればという平野さん。さらに、避けてしまいがちな、最期のお別れについて考える機会になればと話します。
「多くの人に新しいお別れの形を探してほしい。カフェを含め悪ノリみたいに思われることが多いですが、砕けた雰囲気の入り口がないと、きっかけが掴めない人も多いと思うんです。それに、2000円払って棺に入ってみようとする人って、いろいろ深く考えているところがあると感じます」
そんな平野さんは、布施さんに同カフェに設置する棺の制作を任せたほか、内装についてもアドバイスをもらったそう。打ち合わせのためにカフェを作る場所を訪れた布施さんは偶然、処分予定だった平野さんの亡き母が趣味で集めた中国様式のシノワズリの調度品を目にしました。
「螺鈿細工など、とても素敵なコレクションがたくさんありました。それを生かし、棺もそのデザインに合うものをと提案したんです」
平野さんは「これまでの人生経験で『女性の意見に従ったほうが絶対いい』というスタンス」という人生訓もあり、布施さんのアイデアに賛成。慣れ親しんだ母のコレクションに囲まれた、個性的ながら落ち着いた空間が完成しました。