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副業で変わった人生 元読売新聞の女性記者が飲食店のアルバイトを続けるわけ 衝撃だったシェフとの出会い

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著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム

エプロン姿で勤務する岩永直子さん【写真:Hint-Pot編集部】
エプロン姿で勤務する岩永直子さん【写真:Hint-Pot編集部】

 本業のほかに、副業を持つ人が増えています。副業というと、小遣い稼ぎや趣味の延長という印象が強いかもしれません。元読売新聞記者の岩永直子さんは昨年7月、路上で突然、声をかけられたことをきっかけに、都内のレストランでアルバイトとして働くことになりました。その後、自身のnoteでこのことを公開したところ、大きな話題になり、ついには著書まで出版。人生が楽しくなったという岩永さんに、副業で得たものを聞きました。

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週3回イタリアンレストランで仕事 「興味のあるところで働きたい」

 岩永さんは読売新聞に20年、オンラインメディアに6年勤めた経験のあるベテラン記者です。現在は独立し、医療記事の執筆を本業にしながら、副業で週3回、イタリアンレストランでアルバイトをしています。

 なぜ、岩永さんは飲食店でアルバイトを始めようと思ったのでしょうか。きっかけは思わぬ出会いからでした。

「おう、一緒に飲もうぜ」

 昨年7月、岩永さんが近所を散歩中、とあるイタリアンの店のメニュー看板を見ていると、見知らぬ男から声をかけられました。面識がないのに、いきなりため口です。しかも、どうやら酔っている様子。男は店のオーナーシェフでした。面食らった岩永さんでしたが、「私も飲むのは嫌いじゃない」。臆さずに店に入ると、女性の常連客を交えて乾杯しました。

 真昼間から見知らぬ人たちとワインをガブガブ飲んでいる私。冷静に考えれば、おかしくもあり、不思議な状況でしたが、岩永さんはシェフの人柄にひきつけられたといいます。

「シェフは愚痴をずっと言っていました。コロナ禍で店が大変だ、もう貯金を切り崩すばかりで、何のために店をやっているか分からない。今日は神頼みも行って神社にお参りにも行ったけどって言う。健康診断で肝臓の数値が悪くなっているって言われたけども、飲まなきゃやってられないみたいなことをずっと話していました。ところが、シェフって面白い人なので、その中ですごく冗談を言ったり、笑いが起きたりするわけですよ。岩手の出身の人なので、岩手弁を急にしゃべったり、常連さんのお腹をつついたり。それでわははと笑いながら、でも愚痴も聞くって感じの時間だったんですよ」

 実は岩永さん、ちょうどそのとき、飲食店で働きたいと思っていました。祖父は山口でふぐをさばく一流料理人として活躍し、母は埼玉で76歳にして今も現役の料理人です。

「昔から飲食にすごく親しみがありました。本業と関係ない仕事をするとしても、なんか親しみのあるところで、興味のあるところで働きたいじゃないですか。私は読書も好きだから、なぜ本屋さんっていう選択肢が頭に浮かばなかったのかなというのはあるんですけど、でもやっぱり飲食に入りたいと思ったんですよ」

 ただ、いくら履歴書を送っても、吉報は届きませんでした。全くの異業種に加え、50代を目前にしていた年齢もネックになったそうです。

「アラフィフでフルタイムで働きながら週1、2回という条件で、しかも飲食店の経験がないと言ったら、なかなか取ってくれないわけですよね。ずっとバイトしようと思って探したけども、面接さえもたどり着かなくて、振られっぱなしでした。それでも、一つ雇ってくれるところがあって働いたら、超ブラック企業で社会保障もまるでない。個人事業主との契約のように店が一切責任を持ちませんみたいな契約書だったので、これはずっと働いていられないなと思ってやめちゃった。やっぱり甘かったかなと思って、半年間ぐらいバイト活動はやめていたんですよね。そのときにここと出会って……」

 まさに運命的。後日、店のバイト募集の案内を読むと、岩永さんはシェフが書いていた文言の面白さに改めて感銘を受けます。そしてホール担当のアルバイトとして自ら応募し、採用されました。