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15年以上、親子として暮らしてきたのに…父が若くして交通事故死 残された子が直面した問題とは
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結婚するカップルのうち、4分の1が再婚といわれています。ステップファミリーになった際、よく話し合っておきたいのが養子縁組についてです。もし養子縁組をしていないと、遺産相続のときに困ることが。豊富な実務経験がある税理士でマネージャーナリストの板倉京さんが、お悩みを基に解説します。
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法律上の親子ではなかった由美さんとお父さん
遺産相続の制度は、とても杓子定規。制度を理解しておかないと、困ったことになりかねません。
「父が交通事故で亡くなったのですが、私には父の財産を相続する権利がないと言われました」
女子大生の金田由美さん(18歳・仮名)からの相談です。
「そんなことがあるのだろうか?」と戸籍を確認してみると、由美さんと亡くなったお父さんには、血のつながりがありませんでした。
由美さんが3歳の頃、お母さんが再婚。そのお母さんも、3年前に亡くなっています。つまり、由美さんはお父さんにとって「実の子」ではなく結婚相手の「連れ子」であり、法律上の親子ではなかったのです。
養子縁組をしておらず、遺言状もないため由美さんに相続権はない
由美さんも、自分が母親の連れ子であるという事実は両親から聞いて知っていました。しかし、父と15年以上親子として暮らしてきたこともあり、血のつながりがないから相続する権利がないなどと考えたことはなかったといいます。
確かに、法律上の親子関係がない連れ子に相続権はありません。母親が入籍しただけでは、連れ子は父親の法律上の子どもになれないからです。
由美さんがお父さんの財産を相続するためには、お父さんとの「養子縁組」の手続きが必要でした。でも、残念ながらその手続きはとられていなかったのです。両親ともに亡くなってしまった今、なぜ養子縁組をしなかったのか、理由はわかりません。
亡くなったお父さんは47歳でした。まだまだ若く、自分がこんなに早く亡くなるなどとは考えていなかったのでしょう。遺言書の用意もしていませんでした。
そのため、法律上の相続人であるお父さんのお姉さん(由美さんが養子縁組していれば義伯母)が遺産を相続するほかありません。お姉さんは由美さんを不憫に思い、相続した財産のほとんどを譲ってくれると言っているそうです。
しかし、相続権のない由美さんが、遺言書などがない状態で相続財産をもらうことはできません。この場合は一度、お父さんのお姉さんが遺産を相続し、その財産を由美さんに贈与するという形になります。
お姉さんが相続してから贈与すると莫大な税金がかかる
お父さんの遺産は、自宅(相続税評価額3000万円)と現預金2000万円(死亡退職金1000万円を含む)でした。もし、由美さんが養子縁組をして法定相続人になっていれば、自宅は同居の親族が相続したことで受けられる特例(土地の評価額が8割引になる特例)が適用できましたし、法定相続人が受け取る死亡退職金(法定相続人の数×500万円)が非課税になるため、両方の特例を使えば相続税はかからなかったと思います。
ところが、相続人であるお姉さんは、この財産を相続するために約110万円程度の相続税を払うことになります。そして、相続税を差し引いた残りの財産を由美さんに贈与すれば、由美さんは2220万円以上もの贈与税を払うことになってしまうのです。
由美さんのお父さんが「連れ子に相続権がない」ことを知っていたかどうか、今となってはわかりません。ただ、由美さんとお父さんの親子関係は、お姉さんから見ても良好だったといいます。由美さんも、お父さんのことを本当の父親のように慕っていました。
ならば、養子縁組をしておいてほしかったです。せめて、財産を由美さんに残すという遺言書があれば、相続財産は最初から由美さんのものとなり、高額な贈与税を負担する必要もありませんでした。悔やまれる一件です。
(板倉 京)