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農家に転身した矢先に疫病で全滅「一からのやり直し」 本場ニュージーランド“キウイの聖地”、夫婦の逆転人生
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日々の食生活でバランスよく栄養素を摂取するのは難しいですよね。食卓にフルーツがあると、手軽においしく栄養を補給することができます。甘酸っぱい味わいと食べやすさが魅力のキウイフルーツもその一つです。一大産地は南半球の島国ニュージーランド。キウイ農家たちが丹精込めて育て、一つひとつを丁寧に収穫しているそうです。その一方で、疫病により大ダメージを受けた過去も。本場ニュージーランドの“キウイの聖地”の農園を訪ねると、プロの誇りと情熱にあふれていました。(取材・文=吉原知也)
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「日本に輸出されるキウイは、不純物ゼロ、害虫ゼロを心がけています」
日本から約10時間のフライトで、ニュージーランドの主要都市オークランドに着陸。国内線の飛行機に乗り換えて1時間ちょっと。目的地のタウランガにやってきました。「ベイ・オブ・プレンティ」と呼ばれるエリアにある中核都市で、タウランガに住む元キウイ農家のスー・ロウリーさんは「(ベイ・オブ・プレンティの)名前の由来は、太陽も雨も食料も豊富にあるという意味なんですよ」と教えてくれました。
その名の通り、肥沃な大地が広がっています。空港から車を走らせると、丘陵地帯でゆったりと時を過ごす乳牛や羊たちの姿が。どこまでも続くキウイ畑の景色に変わっていきます。50分ほどのドライブで、キウイの名産地「TePuke(ティプキ)」に到着しました。
出迎えてくれたのは、15年前からキウイ農園「リリーバンク・オーチャード」を営むティム・トアーさんとリンダ・ホーズさん夫婦。「ようこそ。日本の消費者の皆さんに感謝しています」と優しい笑顔であいさつをしてくれました。1980年代から続く農園を、夫婦が2010年に買い取り。広さは、グリーンキウイを約3.7ヘクタール、サンゴールドキウイを約2.3ヘクタールの合計6ヘクタールです。もともと大学で園芸を学び、キウイ農園運営のコンサルティングに従事してきたティムさんが、一念発起して生産に挑戦。世界の市場に自慢のキウイを届けています。
ニュージーランドに本拠地を持つ、世界最大のキウイフルーツ販売・マーケティング会社「ゼスプリ」によると、同社の2023年度のニュージーランド産キウイの輸出先は、中華圏が1位、日本が2位、スペイン・ポルトガルが3位。また、日本で売られているキウイは約7割がニュージーランド産だそうで、ニュージーランドのキウイはとてもなじみ深い存在なのですね。
さて、ティムさん・リンダさん夫婦の農園内にあるお宅にお邪魔すると、バルコニーからの絶景にびっくり。キウイの木が生い茂り、ずっと向こうまで畑が伸びています。太陽光が当たりやすいように斜面で栽培しているそうです。「火山の土は、水はけがよく、自然の雨に任せているわ。だからいいキウイが育つのよ」とリンダさん。壁のように高い防風林も印象的で、そのスケールの大きさに圧倒されました。
アドバイザーから現場の農家への転身。ティムさんは「難しさを知っていたので、最初は不安だったよ」と打ち明けます。最初は敷地だけを買い、栽培規模を増やしていったと言います。丘の上に豪華なハウスを建てられたのも、成功者の証しです。
栽培は総力戦。受粉はミツバチの力を借りて、養蜂家チームが担当します。一番忙しい収穫の時期は、専門の人材会社に頼み、ピッカーと呼ばれる職人に手伝ってもらいます。熟練の手仕事でもぎ取り、かごに入れて収穫。サンゴールドの場合で、60人のピッカーを動員してたった1日で収穫するそう。1ヘクタールで80トンの量になるというから驚きです。