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「子育てペナルティ」 出産経験女性は10年で収入46%減 日本はどの国をモデルにしたら良い?

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

教えてくれた人:山口 慎太郎

3つの変革で「子育てペナルティ」を少なく

 子育てをしながら働く世代の多くが感じている困難について、山口教授は「個人の問題ではなく社会構造の問題」と指摘。日本の「子育てペナルティ」の存在は、社会制度設計の不備を意味し、それを変革していく必要性を訴えます。

「とくに注目したいのは、女性の働き方が急速に変化しているにもかかわらず、企業の人事制度や社会の仕組みがその変化に追いついていないという現実です。出産・育児と仕事の両立を望む女性が増えているのに、長時間労働を前提とした評価システムや、女性に子育ての負担が偏る家族構造が残っているのです」

 では、「子育てペナルティ」を少なくするために、日本の社会が取り組めるのはどんなことでしょうか。山口教授はこれまでの研究から、以下の3つの変革を挙げます。

○企業の人事制度改革
 現在の昇進・評価システムを、労働時間ではなく成果に基づくものへと転換することが重要です。現在の昇進制度では、育児期の時短勤務がその後の昇進機会に大きく影響します。この仕組みを変え、短時間でも成果を上げることができる人材が評価される制度にすることが必要です。

○男性の家庭参加を促進する
 子育ての負担が女性に偏っている状況を変えない限り、根本的な解決は難しいでしょう。具体的には、男性の育休取得を義務化するなどの積極的な政策が整うと良いでしょう。

○社会全体の意識改革
「長時間労働=仕事への熱意」という価値観や、「育児は母親の責任」という固定観念が変わっていくことを期待します。そのためには、教育現場からの変革や、ロールモデルの可視化が重要です。

「これらの変革は、単に女性のためだけではなく、男性も含めたすべての人が働きやすい社会を実現するものであると考えています。社会変革には時間がかかりますが、それを待つだけでなく、私たち自身ができることもあります。たとえば、職場や家庭での対話を通じて、固定観念に挑戦していくことです。ときに、小さな声でも、集まれば大きな変化を生み出す力になります」と、一人ひとりの意識とコミュニケーションの大切さを、山口教授は指摘します。

(Hint-Pot編集部)

山口 慎太郎(やまぐち・しんたろう)

東京大学大学院経済学研究科教授。専門は労働経済学と家族の経済学。内閣府・男女共同参画会議委員も務める。民間企業との共同研究も実施し、女性活躍や男性育休取得推進などでアドバイスを行う。「『家族の幸せ』の経済学」で第41回サントリー学芸賞、「子育て支援の経済学」で第64回日経・経済図書文化賞受賞。