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出産女性の賃金格差「子育てペナルティ」 ワーママはなぜ昇進しづらいのか 諸外国との比較で見えた課題とは 東大教授が解説
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教えてくれた人:山口 慎太郎
仕事と子育ての両立を「経済成長戦略の一環」に位置づけ
山口教授によると、たとえばスウェーデンでは、育児休業が480日間あり、そのうち90日間は父親専用の「パパ・クオータ制度」を導入。父親にしか使えない育休枠を設定することで、男性の育休取得率が約90%に達しているといいます。
アイスランドでは、両親にそれぞれ5か月(計10か月)の育休があり、さらに2か月を共有可能とする新しい制度が導入されています。こちらも、男性の育休取得率は約90%と高い水準に。北欧以外でも、フランスでは3歳までの子どもを持つ親に対して、時短勤務権が保障されています。
企業文化の面では、「結果重視」の評価制度が普及。長時間労働よりも業務の成果を重視する評価システムが導入されているケースが多く、また、リモートワークなど柔軟な働き方も一般的です。
「重要なのは、これらの国々では『仕事と育児の両立支援』を単なる福利厚生ではなく、『経済成長戦略の一環』として位置づけている点です。人材の多様性を高め、優秀な人材を確保するための経営戦略としてとらえられています」と、山口教授は指摘します。
出産後の働き方に関する他国の取り組み
日本では、出産後に正社員を辞めて、パートタイムや契約社員として働く女性も多くいます。結果として、賃金上昇や昇進から遠ざかってしまいます。このような構造に対して「子育てペナルティ」が少ない国では、さまざまな取り組みをしているようです。
「ヨーロッパの国々では、雇用形態による待遇格差を縮小するための法整備が進んでいます。たとえば、オランダやドイツでは『同一労働同一賃金』原則が徹底されており、パートタイム労働者でも、正社員と同等の時間当たり賃金や福利厚生を受ける権利が保障されています。
また、パートタイム労働者のフルタイム転換権や、子育て期間中の短時間勤務からの復帰権など、キャリアの連続性を確保するための制度も充実しています。スウェーデンなどでは、子どもが小さい間の時短勤務と、子どもの成長に合わせたフルタイム復帰が円滑に行われる仕組みが一般的です」
企業文化の面では、「ワークシェアリング」の考え方が浸透している国もあるようです。オランダでは、さまざまな職種での短時間勤務が一般的であり、キャリア形成が可能な環境が整っています。
日本社会全体に期待したい4つの変化
日本でも同様の改革が進めば、以下のような変化が期待できると山口教授は話します。
○女性の就業継続率の向上と、それに伴う経済成長への寄与
○多様な働き方の普及による労働生産性の向上
○男性の家庭参加による仕事と生活の質の向上
○企業の人材活用の効率化と競争力強化
「とくに、労働時間に依存しない評価・昇進システムへの改革は、単に男女格差を縮小するだけでなく、企業の生産性向上にもつながる可能性があるという点です。つまり、子育ての負担が重い、優秀な人材の活用を妨げている現状の人事制度を改革することは、企業の競争力強化にも寄与するのです。
研究者としては、引き続きデータに基づいた分析を通じて、より良い制度設計に貢献していきたいと考えています。皆さんの日々の経験や声が、研究や政策立案にとっても貴重な情報源です。一緒に、より働きやすい社会を作っていきましょう」
(Hint-Pot編集部)
山口 慎太郎(やまぐち・しんたろう)
東京大学大学院経済学研究科教授。専門は労働経済学と家族の経済学。内閣府・男女共同参画会議委員も務める。民間企業との共同研究も実施し、女性活躍や男性育休取得推進などでアドバイスを行う。「『家族の幸せ』の経済学」で第41回サントリー学芸賞、「子育て支援の経済学」で第64回日経・経済図書文化賞受賞。
