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子どもが40度の高熱も「3時間待ち」、薬局の受付でぼう然…長すぎる待ち時間、何とかならない? 業界団体の見解は

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム

薬局での長すぎる待ち時間には疑問の声も…(写真はイメージ)【写真:写真AC】
薬局での長すぎる待ち時間には疑問の声も…(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 今月に入り、インフルエンザや百日せきなどの感染症が猛威を振るっています。病院での診察後、薬を処方してもらうために立ち寄る薬局。ネット上では長すぎる待ち時間に「なんで薬局ってこんなに時間かかるの?」「病院の待ち時間よりも長い」など、疑問の声も相次いでいます。通常、薬局での待ち時間は30分から1時間ほどですが、中には「3時間以上待たされた」という声も……。近年ではスタッフや薬剤師へのカスタマーハラスメント(カスハラ)被害も問題視されています。薬の調剤にはどんな作業があり、なぜこれほど時間がかかるのでしょうか。薬局側の事情について、一般社団法人日本保険薬局協会のコンプライアンス委員会に話を聞きました。

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通常は30分から1時間ほどだが、中には「3時間以上待たされた」という声も

 お盆期間真っただ中の8月中旬。都内在住の30代男性は、病院帰りに立ち寄った薬局で「3時間待ち」という驚きの待ち時間を告げられたと振り返ります。

「1歳の娘が40度を超える高熱を出し、救急外来を受診するか悩んだ挙句、唯一開いていた駅ビルの中の小児科を受診しました。帰りに同じ駅ビルの薬局に寄ったところ、『ただいま大変混み合っておりまして、お薬をお渡しするまで3時間以上お時間をいただいております』と言われ、びっくりしてしまって……。近くの他の薬局も回ってみましたが、お盆のためかどこも薬がないと言われて、仕方なく一度家に帰って呼び出し時間に合わせて行きましたが、そこからもう1時間くらい待たされました」

 男性のケースは極端な例としても、薬局の待ち時間に不満を唱える声は多くあります。ネット上では「薬を出すだけなのになぜこんなに時間がかかるの?」「医者にも話したことを何度も説明させられて面倒」といった疑問の声や、「『何時間待たせるんだ!』って怒った患者さんから怒鳴られるのがつらい」といった薬剤師やスタッフの嘆きの声も上がっています。

 薬局での薬の調剤には、なぜこれほど時間がかかるのでしょうか。薬局の経営者団体である日本保険薬局協会の担当者は「すべては患者さんの安全を第一とするためです」と理解を求めています。

「薬を安全に、最大限効果が発揮されるよう調剤するためには、多くの確認事項があります。まず、初めて利用する薬局の場合には、既往歴やアレルギーの有無など、問診票の記入をお願いしております。2回目以降でも、前回の処方との変更点や、用法・用量、併用薬との飲み合わせなど、確認項目は多岐にわたる。医薬分業により、医師と薬剤師による二重チェックで、薬の処方ミスを防いでいるのです」

 調剤薬局では通常、医療事務員などのスタッフが処方箋をもとにデータを入力し、専門知識を持った薬剤師が処方内容を確認しつつ調剤を行います。その後、服薬指導として日常生活の様子や薬を適切に服用しているかを患者側にヒアリングし、問題がないことを確認した上で薬を交付。併用薬との飲み合わせや重複などで、処方箋の内容が適切でない場合に注意アラートが出るような各種システムがあるものの、最終的な判断は薬剤師の知識や経験に委ねられているそう。調剤ミスにより健康被害が発生した場合には、薬剤師が損害賠償責任を負う可能性もあり、絶対に間違いがあってはならない責任重大な業務です。

 近年、さまざまな業界ではAIの導入やDX化による業務の効率化が進んでいます。コロナ禍では薬局でも一時的にオンラインによる服薬指導などが導入されましたが、今なお継続されているのは1%未満だといい、普及が進んでいるとは言い難いのが実情です。新技術導入による待ち時間の短縮はできないのでしょうか。

「調剤監査システムや自動分包機など、機械化・自動化により結果的に待ち時間が短縮されることはあるかもしれませんが、最も大切なのは正確性と安全性。薬の管理などの対物業務の負担が軽減されれば、その分患者さんへの生活環境のヒアリングなど、対人業務がより重要になってくる。そういった人への対応の部分はAIにとって代わられることはない、プロフェッショナルな仕事として残っていくと思います」

 業務の中心が人への対応にシフトしつつある時代、薬剤師や事務員へのカスハラ被害も深刻化しています。同協会が実施したアンケート調査では、全体の2割がカスハラ被害の経験があり、そのうち7割が「大声などの威圧的・攻撃的な態度」を受けたと回答。理由は「待ち時間」や「薬の欠品」から、制度に対する理解不足や不満など、多岐にわたるといいます。同協会でも、アンケート調査の他、啓発ポスターの作成やカスハラ対応マニュアルのひな形を作成するなど、さまざまなカスハラ対策を講じています。

「ポスター掲示による注意喚起や、社内教育などを通じスタッフのコミュニケーション能力をスキルアップさせるといった対応を行っています。ただ、薬剤師法では薬剤師には正当な理由がない限り調剤を拒否できない『調剤応需義務』が定められており、理不尽なカスハラ客であっても飲食店などのように“出禁”などの対応は取れない。薬局側も頭を悩ませています」

 立場の弱いスタッフや薬剤師を標的としたカスハラ行為は許されないもの。その上で、より安全で効率的に薬が受け取れる仕組みが求められています。

(Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム)