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「イタリア人の逆鱗に触れることに」 ナポリタンよりも許せない 日本の“魔改造”パスタとは
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正統派カルボナーラの作り方とこだわりの材料

日本の“魔改造”パスタは素晴らしくおいしいので、それに対して寛容なイタリア人は多いです。しかし、そんなイタリア人でも絶対に許せないのがナポリタン。ケチャップが嫌いで許せない大多数のイタリア人は、ナポリ発祥でもない横浜生まれのこの料理が、イタリア料理のような顔をしているのが許せません。知り合いのイタリア人は「でも、おいしいので和食だと思って食べている」と言っていますが。
実は、イタリア人にとってナポリタンよりも許せないパスタがあります。それは、日本では一般的な、クリームを使うカルボナーラです。カルボナーラはローマ発祥のパスタで、スパゲティで作るのが一般的。その場合はスパゲティ・アッラ・カルボナーラといいますが、タリアテッレで作ることもあります。
材料は卵、ペコリーノチーズ、グアンチャーレ(豚頬肉の塩漬け)、黒コショウの4つ。これ以外を使うことは御法度です。
グアンチャーレが手に入らなければ、パンチェッタ(豚バラ肉の塩漬け)を使う場合もありますが、「味のコクと奥行きが全然違ってくる」とイタリア人。どちらも手に入りにくい日本ではベーコンが多用されますが、これは「問題外!」だそうです。「グアンチャーレをじっくりと火にかけてにじみ出てくる、甘みのある油が味の決め手になるんだから、ベーコンなんて論外」なのだそう。
すりおろしたペコリーノチーズは、卵とよく混ぜておきます。ペコリーノチーズは塩分が強いので、塩を加えなくても大丈夫。ペコリーノチーズがない場合、パルミジャーノを使うこともありますが、これはかなり「仕方がない」ということになるようです。卵とチーズを混ぜたものの仕上がりが固ければ、パスタのゆで汁を入れてなめらかに。パンチェッタの油を加える方法もあります。
日本だとここにクリームを入れてしまうのですが、それをやるとイタリア人の逆鱗に触れることに。前回の記事でご紹介した、ロングパスタを折ってゆでると叫ばれる「マンマ・ミーア!」が炸裂します。
パスタがゆで上がったら、パンチェッタの鍋に投入し、ゆで汁で調整しながら素早く乳化。そこに卵とチーズのペーストを加え、和えてすぐに火を止めます。皿に盛ってペコリーノチーズと黒コショウをたっぷりかけたら完成です。これが正統派カルボナーラの作り方で、クリームが入る余地はどこにもありません。
日本のパスタはどうにも悩ましい食べ物
おそらく、卵とチーズのペーストをパスタに混ぜる際の火加減や時間が難しく、ダマになったりモロモロになったりしやすいので、日本ではクリームを入れる方法が発案されたのだと想像します。確かに、そのほうがなめらかでクリーミーになりますし、おいしいですよね。しかし、それはイタリア人にとって、絶対に“イタリアのカルボナーラ”ではない別物なのです。
ブロッコリーやキノコ入れるなど、日本ではアレンジカルボナーラも百花繚乱ですが、これは完全にイタリア人の怒りを買います。カルボナーラという名前を使わなければいいのにと思いますが、味をイメージしやすいのでしょうね。
日本で“魔改造”されるパスタがとてもおいしいだけに、“イタリア料理原理主義者”たちにとっては、どうにも悩ましい食べ物になっているようです。
(斎藤 理子)
斎藤 理子(さいとう・りこ)
出版社で雑誌編集に携わったあと、イギリス・ロンドンなど海外に長年在住し、世界中をめぐって各地の食文化を体験。帰国後は日本国内外の食材生産者から、ミシュラン三つ星レストランや街角の立ち飲み店まで、幅広い食の現場を取材・執筆している。主な著作に「イギリスを食べつくす」(主婦の友社刊)、「隣人たちのブリティッシュスタイル」(NHK出版刊)がある。また、「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフによる連載記事を編集・監修した「田舎のリストランテ頑張る」(マガジンハウス刊)の編著者でもある。2011年には、イギリス政府観光庁よりメディアアワードを受賞。現在、やまがた特命観光・つや姫大使を務める。
