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インドなのに「ナマステ」が通じない!? 日本人には理解しがたい“多言語国家”インドの意外な事情

公開日:  /  更新日:

著者:中谷 秋絵

頭に浮かびやすい「ナマステ」のイメージ(写真はイメージ)【写真:PIXTA】
頭に浮かびやすい「ナマステ」のイメージ(写真はイメージ)【写真:PIXTA】

 インドのあいさつといえば、「ナマステ」のイメージがあるかもしれません。しかし近年、日本でも人気のインド映画『RRR』や『バーフバリ』では、「ナマステ」と言っていないことはご存じですか? 実は同じインド人同士、言葉が通じないこともあるようで……。これが多言語国家インドのおもしろいところ。インド研究家で旅するライターの中谷秋絵さんが、現地で体験した驚きのエピソードとともに解説します。

 ◇ ◇ ◇

日本で盛り上がるインド映画ブーム

 先日、日本のテレビで『バーフバリ』シリーズ2作が放送されていました。燃え上がる熱い闘志とド派手なアクション、恋愛や家族愛まで描き、歌って踊り――。インド映画には、あらゆるエンタメ要素がギュッと詰まっています。

 これまで、日本ではマイナーだったインド映画ですが、バーフバリをきっかけに一部で熱狂的なファンが生まれました。そして、『RRR』は日本で公開されたインド映画で興行収入が初の10億円を突破し、大きな話題を呼びました。この『RRR』の大ヒットを機に、日本でもインド映画が市民権を得た印象があります。

 実は、『バーフバリ』も『RRR』も、南インドの言語であるテルグ語映画です。これらの映画は北インドのヒンディー語やその他の言語に翻訳され、インドの他の地域でも上映されました。このように、ひとくちに「インド映画」といっても言語が異なり、インド国内でも別言語で上映されています。

インド人同士なのに会話できない

「言語が違うって方言みたいなもの?」と思われた方もいるかもしれません。そんな疑問を払拭するエピソードをご紹介します。

 筆者が北インドのニューデリーで働いていたときのこと。日本人の上司が、南インドの都市チェンナイに出張に行きました。

チェンナイの空港にあるオブジェ【写真:中谷秋絵】
チェンナイの空港にあるオブジェ【写真:中谷秋絵】

 空港に着いたとき、タクシー運転手は英語ができなかったため、インド人に通訳してもらおうとデリーオフィスのインド人スタッフに電話。

 ところが、そのインド人スタッフもタクシー運転手と会話できなかったのです。「運転手はヒンディー語もわからないから、私もしゃべれません」とのこと。

 北インドはヒンディー語、南インドのチェンナイでは主にタミル語が話されています。北と南のインド人が会話するときには、英語が使用されます。そのため、英語がわからなければ、会話が成り立たないのです。

「同じ国の人同士なのに会話できない」という状況に遭遇したことのない日本人の私にとって、とても不思議な感覚でした。