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ヘンリー王子夫妻の“擁護派”は1人だけ 極端なテレビ番組が英国で制作される理由とは

公開日:  /  更新日:

著者:森 昌利

出演したヘンリー王子夫妻“擁護派”はスコビー氏のみ

 話を戻すと、ドキュメンタリー番組「ハリーとウイリアム」は、両親の不仲や愛する母ダイアナ元妃の死を一緒に乗り越え、一時は兄弟愛のシンボル的な存在だったウイリアム王子とヘンリー王子がどのように関係を悪化させていったのか、そのプロセスをいくつかのターニングポイントとともに解明するものだ。

 普段から王室報道に触れているだけに、出演した専門家が語るエピソードの中にこれまで明かされていなかった“衝撃的な新事実”は見つからなかった。しかし、専門家たちがコメンテーターとしてそれぞれの立場からかなり踏み込んだ発言をし、感情的な立ち位置をはっきりさせていたことが興味深かった。

 出演した専門家たちの顔ぶれを見て、王室通の読者ならピンと来ると思うが、ヘンリー王子とメーガン妃夫妻の擁護派はオミッド・スコビー氏だけ。他はいずれも王室取材歴が長い保守的な論客だ。しかも、スコビー氏が多勢に無勢で放つコメントはどれも言い訳じみて聞こえる構成。そういう意味では、明らかにヘンリー王子夫妻の分が悪い人選だった。

 正直なところ、こんな番組を作ったら王子夫妻が「我々を貶める意図が明らかだ」と弁護士を通じて不満を表明しかねないのでは……と思った。BBCがリリベットちゃん誕生時に「エリザベス女王に許可を取っていなかった」とする王室情報筋の談話を報じた際のように。

「米国人が英王室のルールに文句を言うのはお門違い」

 しかし、番組に対する妻と娘の反応を見ていると、これが“英国民の心情に沿った人選”なのだろうという気持ちにもなった。まず娘は、番組の冒頭部分でヘンリー王子が「王室にとらわれていた」と発言する3月の暴露インタビューが映ると「このインタビュー、今でも頭に来ちゃう」とつぶやいた。

「どうして?」と尋ねると「だいたい米国と英国じゃ文化が違うんだから。それに歴史の長さも違うでしょ。それなのに、王室のルールに文句を言うのはお門違いだわ」との返答。

 なるほど、メーガン妃とオプラ・ウィンフリーという“米国”が一緒になって「英国の伝統にケチをつけている」と感じているようだ。

 メーガン妃に同調できないという気持ちは妻も同じだ。それは番組が妃の王室スタッフいじめ疑惑に触れた際、彼女が話した感想に強く表れた。

 妃は結婚後も、ハリウッドセレブ的な感覚で王室スタッフをこき使ったという。この時の態度が高圧的ですこぶる評判が悪く、のちにいじめ問題として啓発された。また、長い歴史と重い格式、伝統から、最大限の慎重が求められる王室スタッフの動きは遅い。何をするにも前例を調べ、決断に時間がかかる。これが妃としては歯がゆくて苛立たしく、挙句には義理の兄嫁であるキャサリン妃との対応に「差がある」と言い出す始末にもなった。

 確かに米国のセレブなら、朝5時に「私の欲しいものを今すぐ持ってきて」と要求しても、即座に対応するサービスが得られるだろう。けれども我が妻は「それを英王室に期待しても無理よ」と苦笑しながら言う。

「まあメーガン(妃)も自分の思い通りにならずに苛立ったかもしれないけど、こんな風に(高圧的に)自分の意見や要求を押し通すと、英国では『無礼な人間』だと思われるわね。特に王室でしょ。評判が悪くなるばかりだったのかも。あそこは特にマナーとエチケットが大切だから。スタッフも貴族だし。日本人もそういうところは同じじゃない? 米国人は自分たちの方が特殊だということに案外気が付かないものなのよ」

 なるほど、ごもっともかつ分かりやすいご意見である。米国は移民が作った若い国だ。それでも世界の大国になったパワーはあるが、長い時間をかけて築いた伝統や格式というものはなかなか実感できない社会なのかもしれない。