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朝ドラヒロイン決定で要注目の黒島結菜 切なさ醸す『明け方の若者たち』に至るまで

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会
(c)カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会

 2022年前期のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「ちむどんどん」。ヒロインに抜擢されたのは、沖縄県出身の黒島結菜さんです。芸能活動を始めた当初は、地元と東京を往復する日々。多数のドラマや映画に出演し、NHK大河ドラマなどで広くお茶の間に認知されました。現在24歳、順風満帆の俳優人生にも見えますが、大学生活と仕事の両立に悩んだ時期もあるそう。映画出演最新作『明け方の若者たち』には、そうした葛藤や悩みが見事に昇華されている部分もあるといいます。2022年も要注目の黒島さんについて、映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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挫折や葛藤を経て成長する若者を描く『明け方の若者たち』

 大先輩の女性映画評論家にインタビューした際、お仕事の年譜を前にあれこれ伺った。「お仕事をされていたあの頃を表現するとしたらどんな時代だと言えそうですか?」と聞くと、「そんなの当事者には分からないわよ。目先のことで必死だったから(笑)」と豪快に笑われた。

 映画ジャンルでの女性編集者が多かったとは言いがたい60年代から70年代。どう感じていたのか伺いたかったのだが、当事者は近視眼的になり、俯瞰できないというわけだ。

 そんなことを思い出したのは、北村匠海主演、黒島結菜がヒロインを演じる松本花奈監督『明け方の若者たち』を観たから。「あの時間こそさ、今思えば人生のマジックアワーだったんじゃないかって思うんだよね」という北村演じる〈僕〉の言葉が胸の奥をザラッと触ったのだ。

『明け方の若者たち』は、大学や会社で出会った3人の男女が音楽や考え方で意気投合し、5年という月日の中で挫折や葛藤を知り、成長していく物語。人気ライター、カツセマサヒコのデビュー小説を映画化した作品だ。

〈僕〉は、就職の決まった学生のみが参加する“勝ち組”飲み会で〈彼女〉と出会う。参加者のほとんどが“勝ち組”というネーミングに違和感を抱いていない中、そそくさと帰った〈彼女〉に〈僕〉は同じ匂いを嗅ぎ取る。

「携帯を失くしたみたい。この番号にかけてみて」。帰り際の〈彼女〉から頼まれ、かけた番号からの呼び出しですぐに再会。「RADWIMPSのアルバムの何枚目が最高か」で盛り上がった頃には2人の距離は縮まっていた。

 ヒロインを演じる黒島結菜は24歳。大学院卒業間近という設定の〈彼女〉は実年齢に近い役だ。これまで演じてきた役に比べ、かなり大人な印象。大学4年生という設定の〈僕〉と比べても“おねえさん”な感じがする。〈彼女〉に〈僕〉が惹かれるように、我々をも魅了する迫力。こんな黒島、見たことがない。

「社会勉強」として出場したコンテスト 引っ込み思案な少女が芸能界へ

 黒島は沖縄出身。デビューのきっかけは、中学3年生だった2011年に母親から「社会勉強だ」と勧められた、ウィルコム沖縄のイメージガールコンテスト出場だった。二階堂ふみを発掘した「沖縄美少女図鑑」で特別賞を受賞し、現在の事務所に所属。2013年に映画『ひまわり~沖縄は忘れない あの日の空を~』で俳優デビューを果たし、沖縄の高校に通学しながら、東京と沖縄を往復して芸能活動を始める。

 中学時代の黒島はどちらかといえば引っ込み思案な方だったという。体を動かすのは好きで、小学校ではバスケットボール、中学校ではバドミントンに打ち込んでいた。だが、コンテストへの応募も“絶対に俳優になる”という強い気持ちからではなかった分、“演技者”としての自分を掴むことに苦労したのではないか。

 演技者としては開花していなくても、彼女には不思議な魅力があった。2017年の「アシガール」(NHK)はまさにそれを見せつける作品だった。黒島が演じたのは、戦国時代にタイムスリップした女子高校生の唯。一目惚れした若君・忠清(伊藤健太郎)を守り抜こうと決意し、ひ弱ながら自慢の脚力を武器に足軽となる。

 日焼けした細い体でとにかく走る。頼りにならなさそうだが、若君を守ろうという意識だけは強い。将来の目標などなかったただの高校生が、いきなり毎日、生死の感覚をとぎ澄ませざるを得ない世界に放り込まれて覚醒する。ラブコメ少女漫画をドラマ化した作品ゆえ劇画タッチなリアルさはないが、黒島がもがく姿にはリアリティがあった。