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「奇跡」と「幼なじみ」で泣ける映画3選 毎年末に“全米が泣く“不朽の名作とは?
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興奮、共感、学び、感動など“映画に求めるもの”は人それぞれ。映画の多くは創作された世界とストーリーによる“フィクション”ですが、だからこそ描き出される真実やポジティブなパワーも存在します。描かれる“現実ではありえないような奇跡”も、人が映画に引き付けられる理由の1つ。映画が夢見させてくれる“奇跡”が、涙腺を大いに刺激するものでもあります。今回は映画ジャーナリストの関口裕子さんのナビゲートで、「奇跡」にフォーカスした泣ける名作3本をセレクトしてみました。
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どん底に陥った時、ここからどうやって抜け出せばいいのかと必死に考える。でも解決方法にはそれほどバリエーションはなく、はたまたそれほど想像力に富んだものもない。現実なんてそんなもの。だからこそ映画が観たくなる。そう。逃避なのだと思うが、映画が夢見させてくれる“奇跡”に浸りたくなるのだ。
映画を観ると、自分にも奇跡が起きないかとつい期待してしまう。でも、泣いてすっきりしたからかもしれないが、こうしていることも奇跡なのかもしれない。そんな風にも思えてくる3作品を紹介しよう。
正統派“奇跡”を描く超有名作『素晴らしき哉、人生!』
映画の奇跡といえば、フランク・キャプラ監督『素晴らしき哉、人生!』(1946)。米ニューヨーク州ベッドフォールズという小さな町で住宅金融会社を営む男ジョージ・ベイリー(ジェームズ・スチュワート)に起きた小さな奇跡を描く。
ベッドフォールズの町は、ポッターという貪欲な実業家が実質支配していた。彼の貸す家は家賃に比べおんぼろで、彼の企業の給料は仕事内容に対して低い。ジョージの父はそんな貧しい人々が家を持てるよう、良心的な利息で住宅資金を貸している。ジョージも父に似て、小さい時から惜しまず人助けをしてきた。しかし、何しろ不運。凍った池に落ちた弟を助けて片耳の聴力を失い、父の他界により大学進学を諦め、出かける車の中で世界恐慌のニュースを聞き新婚旅行を断念した。
それでも幼なじみで美しく優しい妻メアリー(ドナ・リード)と子どもたち、気心の知れた友人たちに囲まれ、人生はそこそこ幸せ。そんなあるクリスマスイブ、会社の売り上げを使い込んだと疑われたジョージは横領で危うく逮捕されそうになる。ポッターに融資を依頼するも、ジョージを煙たく思う彼が貸すはずはない。万策尽き、大雪が降る橋の上に立ち、暗い川面を見つめるジョージ。そんな彼の隣に、いつしか年配の男性が立っている。彼は自分を天使だと言う!
『素晴らしき哉、人生!』は、米国で毎年末にテレビや名画座で上映される名作。低所得者向け住宅金融を題材としていることもあり、リーマンショックの時にはよく引き合いに出された。
現代の住宅ローンと映画のベイリー住宅金融の違いは、前者が証券化されたことにより顔の見えない投資対象となっているのに対し、後者は“ベイリーパークに買った家”という流動性こそないが一目瞭然の不動産であること。心温まるはずの名作は、肥大化した経済の仕組みの落とし穴を分かりやすく提示し、サブプライムローンの怖さを思い知らせることになったが、実はコロナ禍の今の方が生々しく見える。
現状打破のきっかけとなるかもしれない本作の“奇跡”についてはご自身で確かめていただきたいが、代わりにこのシーンを観るだけでも元気になれるジョージとメアリーのエピソードを紹介したい。
ジョージは、弟の高校卒業パーティーで友人の妹であるメアリーと再会する。ダンスコンテストでは意気投合してチャールストンを踊る2人。その仲の良さに嫉妬した友人たちは、2人をフロアの下に設えられていたプールに服を着たまま落とそうと画策。このシーンのポップな描き方は現代の映画にもなかなかない。服を着たままプールに入りたくなること請け合いの楽しさだ。
プールに落ちた2人は、ガウンに着替えて帰路に就く。道中でジョージは、メアリーが気に入っている20年来の空き家の窓を目がけて石を投げる。「狙った窓ガラスが割れたら願い事が叶う」と言って。果たして窓は割れ、ジョージは世界中を旅して大学に行き建築家になるという夢を話す。メアリーも見事に命中させるが願った夢を話そうとしない。そんなメアリーにジョージは「月を取ってあげる」と約束する。
このシーンは、ジョージが誤って腰紐を踏んでメアリーのガウンを脱がしてしまうドッキリシーンにつながり、さらにラストの奇跡へとつながる伏線ともなる。奇跡に至る最後のシーンは、何度観ても泣けてしまう。正統派奇跡の作品だ。