カルチャー
美少女から大人の女性へ美しく成長 小松菜奈の“強さ”が光る映画『恋する寄生虫』
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12歳で雑誌モデルとしてデビューし、今年2月に25歳を迎えた小松菜奈さん。18歳で映画に出演してからは、若手俳優としてキャリアを重ねています。美少女から大人の女性に成長していく様を見守っていた人も多いでしょう。そんな小松さんの映画出演最新作は、視線恐怖症で不登校の高校生役。極度の潔癖症である青年との恋を描くこの作品では、小松さんが持つ“強さ”が見事に浮かび上がっているようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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誰の心にもある不安や恐怖…簡単に増幅するという事実を提示する『恋する寄生虫』
新型コロナウイルスのパンデミックによって、社交不安障害やうつ病と診断される人が増加したという報道があった。特に増えたのは女性と若年層なのだという。その理由については、ホルモンなど生物学的な由来だとする研究が進む一方、テレワークという名でソフトに隔離された生活や、社会生活における対応や収入のジェンダー格差などがもたらす不安によるのではないかとする研究も進められている。
もちろん病を発症する人自身に非はない。自分を責めたり、無理をしたりすることなく、医療機関の扉を叩くことが大切だ。そして状態の差こそあれ、誰の心にも発症の種となりそうな不安や恐怖はある。何かの具合でスイッチが入れば、それらは簡単に増幅するだろう。うっすらと抱いていたその考えが、柿本ケンサク監督『恋する寄生虫』で映像として提示されたことに驚いた。
『恋する寄生虫』は、強度な潔癖症ゆえに他人と空間を共有できない高坂賢吾(林遣都)と、視線恐怖症のためヘッドホンで音を遮り、他人と目を合わせないように暮らす不登校の高校生、佐薙ひじり(小松菜奈)の恋を描いた作品だ。
2人の頭の中には虫がいるという設定。恋に寄生する“ふたご虫”。人を引き寄せ、見事恋を成就させたら、虫は目玉を捨てる。「恋は盲目だから」なのだと。そう劇中で説明する。ただし、これがメタファーなのか、事実なのかは、見当をつける間もなく物語は進む。その曖昧さはむしろスリリングだ。
「自分を強いと思ったことはない」と語れる“強さ”
人が誰しも意識下に抱く不安や恐怖。小松菜奈は、それを躊躇なく表現することができる俳優だと思う。
彼女自身は、「自分を強いと思ったことはない」と語っているが、弱さを知ること自体、十分な強さだと思う。不安や恐怖を演じることを誰もが知る感覚で例えるなら、自分をよく見せたい場で超絶ダメなところを語るようなもの、とでも言おうか。役を生きるとは、自分の一部を他人の生に変換すること。そんな“演技”を行う覚悟ができているというか。
小松菜奈のキャリアは、2008年、母と原宿の竹下通りを歩いていた時にスカウトされたのをきっかけに始まった。12歳で小学生向けファッション誌「ニコ☆プチ」(新潮社刊)のモデルとしてデビュー。しゃべらなくていいのでモデルの仕事は「好きだった」という。
6年後、18歳で中島哲也監督『渇き。』(2014)で鮮烈な俳優デビューを果たす。役所広司扮する元刑事、藤島の娘である高校生の加奈子。事務所の勧めもあって受けたオーディションで勝ち取った役。大量殺人への関与を暗示させながら、父親を、クラスメイトを狂気に巻き込んでいく。何も分からない撮影現場で、しかし沸き上がる抑えることなどできない感情に突き動かされ、俳優という仕事に突き進んでいった。
『渇き。』までの時間、演じてみたかった作品もあったのだそうだが、高校時代は学業優先。「ちゃんとした学生生活を楽しんでおかないと後悔する」という譲れない思いがあったのだという。その年頃、その時代をきちんと生きる。そうした生き方が現在の演技につながっていると強く感じる。『恋する寄生虫』での高校生役にも、彼女のベーシックな生き方は生かされている。
暴力を極めた真利子哲也監督『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)、駆け引きを知らない高校生の恋を描く山戸結希監督『溺れるナイフ』(2016)で、魅力を極限まで高めた小松は、『来る』(2018)で再び、中島哲也監督作品に呼ばれる。
『下妻物語』(2004年)では深田恭子と土屋アンナを、『嫌われ松子の一生』(2006)では中谷美紀を、『告白』(2010)では松たか子を“わななかせた”中島監督。もちろん小松への演出でもさまざまあったのだろうが、彼女はまったくへこたれた様子を見せなかった。何なのだろう、この強さは? そう思った。