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美術館が理髪店に!? オランダで展開されたコロナ政策への抗議活動 その理由とは
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新型コロナウイルス感染症の防止をめぐる対策の裏で、必ずと言っていいほど争点になる規制の対象。厳しいロックダウンから規制が緩和され始めたオランダでは、対象業種に不思議な線引きが。そして、そこで生まれた不公平感によって先日、実にユニークな抗議活動が展開されていたようです。現地在住ライターの中田徹さんに、その様子をリポートしていただきました。
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文化活動を楽しみながらヘアカット 夢のようなイベントがオランダで開催
オーケストラが奏でる音楽に耳を傾けながら、または有名絵画を眺めながら髪を切る――そんな夢のようなイベントが現地時間19日、オランダ国内70か所の文化関連施設で行われました。
私も首都アムステルダム北部の町、ザーンダムにある「ザーン劇場」へ。収容人数880人ほどの劇場に、およそ200人が集まりました。かなり空席があったものの、無料だったチケットはあっという間に予約で埋まってしまったそうです。同劇場は待合室が狭いため、コロナ対策で観客数を相当絞ったのでしょう。
ザーン劇場では、4人の著名なコメディアンが1時間にわたってパフォーマンスを披露。この間、ステージの奥では4人の美容師が客8人の髪を仕上げていました。
コメディアンのジョークに観客は大爆笑の連続。残念ながら、私のオランダ語能力ではコメディアンが早口すぎて聞き取れなかったのですが、あくまでそれは想定内でした。久しく自分自身が笑っていなかったこと、また身近な人たちの笑い声も聞いていなかったことに最近気付いたため、「今回はオランダ人が腹から笑う姿を楽しもう」と割り切って劇場に来てみたのです。
観客はコメディアンの持ち芸を知っているので、例えばレナッテ・ファン・ドンゲンというベテランマルチタレントが「踊るわよ~」と言った時点で大喜び。老いも若きも一斉に立ち上がって踊っていました。これぞライブの一体感! しかし私は「ちょっとコロナ対策のことを忘れてしまっているかな」と思い、立つだけで踊りませんでした。それでも、精神的な充実感だけは得ることができたように思います。
イベントの正体は“抗議活動” 2人のコメディアンが発案
この何とも不思議なイベント、実はオランダ政府のコロナ政策に対する劇場や美術館、博物館といった文化関連施設の“抗議活動”なのです。話は昨年の12月中旬にまでさかのぼります。
オランダは昨年12月19日から現地時間1月14日まで、厳しいロックダウンに入っていました。しかし15日からは一部規制が緩和され、商店や理髪店、マッサージ店などに対して午後5時までの営業再開を認めることに。その反面、飲食店や文化関連施設は規制緩和の対象から外れてしまったのです。
文化関連施設は本来、チケットの販売枚数を制限するなどして十分なコロナ対策がとれるはず。特に演者はフリーランスが多く、日々の生活に貧窮し切っています。
そこで、2人のコメディアンが「コロナのルールを破ることなく、何とか抗議活動はできないものか」と考えました。その結果、「劇場を1日だけ理髪店に変えてしまって、そこでコメディを披露すればいいんだ」という案に行き着いたのです。
先述の通り理髪店は現在、営業が許されています。こうして「Kapsalon Theater(理髪店シアター)」というスローガンのもと、現地時間19日に文化活動に関わる者たちによる抗議活動が行われることになり、その輪は瞬く間にオランダ中へ広がっていきました。