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美術館が理髪店に!? オランダで展開されたコロナ政策への抗議活動 その理由とは
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厳しいロックダウンでも国境閉鎖はせず 隣国の都市に“大移動”も
規制を緩和する対象業種の線引きによって、私が訪れたザーン劇場の周囲は飲食エリアと商業エリアで活気の差がはっきりと表れていました。
同劇場から50メートルほどのところにあるレストランとカフェが集まるエリアには人っ子一人おらず、ゴーストタウンのよう。一方で、さらに先にあるザーンダム駅まで続く商店街は買い物客でにぎわっていました。
こうして飲食店に対して厳しい措置を続けているのとは裏腹に、オランダ政府は厳しいロックダウンを開始した直後から国境を閉鎖しませんでした。そのため、クリスマスの数日前からオランダ人が大挙してベルギーに押し寄せるという現象も発生。特に同国北部の都市アントワープはオランダ人だらけになりました。
ロックダウンでオランダ国内の交通渋滞が減る一方、ブレダ(オランダ南部)からアントワープへ向かう高速道路だけは慢性的に渋滞。アントワープの駐車場はオランダナンバーの車で埋まりました。アントワープに向かう国際鉄道も車両を増やす必要に迫られたほど混雑したのです。
コロナ対策の観点ではベルギー人にとって迷惑だった半面、大きな経済効果を生んだオランダ人の“アントワープ大移動”。その間、営業機会を奪われていたオランダのレストランとカフェは地団駄を踏んで悔しがりました。オランダ南西部の都市ドルトレヒトの若手市議会議員は国政を批判。人通りが少なくなった町の中心部を走る通りに、皮肉を込めて「Antwerpen(アントワープ)」という偽の名称を付けました。
飲食店も抗議活動を展開 自治体の方針に変化が
規制緩和が始まった現地時間15日、オランダの飲食店は一斉に店を開きました。これは今回の規制緩和対象から外れたことへの抗議活動。各自治体の首長たちの多くは、飲食店の苦境に対して同情を示し、時間を区切っての営業や1.5メートルのソーシャルディスタンス維持、マスク着用などの条件付きで、1日限りの営業を許可しました。
しかし、飲食店の抗議活動から日が経つうちに、風向きには少し変化が。現地時間18日になって、アムステルダムやロッテルダムなど多くの自治体の首長が「抗議活動はコロナ政策に反するものだからやめるように」と警告するようになったのです。
こうして迎えた19日。世界的名ホール「コンサルトへボウ」や世界で最も充実したゴッホのコレクションを誇る美術館「ファン・ゴッホ美術館」などで“文化を楽しみながら髪を切る”ニュースが、世界中に配信されました。しかしその裏で、自治体の首長による判断か、少なくない施設が開演前や開演中に警備員から警告を受け、今回の抗議活動を泣く泣く断念することに。オランダ中のローカルニュースを見ると、このような話ばかりです。
私が訪れたザーン劇場内にも警備員が潜んでおり、すべてのスケジュールが終わってから警告を与えたそうです。警告が3回目になったイベントは警察が来て強制的に終了させられ、さらに主催者は罰金を受けるとか。そう思うと、ザーン劇場に潜んでいた警備員、もしくは彼らに警備の仕事を命じた首長もまた、今回のイベントに多少なりとも共感していたのかもしれません。
(中田 徹)
中田 徹(なかた・とおる)
1998年に日本企業の駐在員としてオランダへ赴任。2002年に退職し、フリーランスのスポーツライターとして活動を始める。ライフワークのサッカーを追って欧州各地を取材してきたが、現在はコロナ禍のためオランダとベルギーに活動地域を絞っている。オランダ・スポーツプレス協会で唯一人の日本人メンバー。