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変異株がピークを過ぎたオーストラリア 厳しいコロナ対策の光と影
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休職者に1か月24万円支給 現金ばらまいたコロナ対策
一方、コロナ禍の景気刺激策としては、オーストラリア政府の「財政政策」と中央銀行の「金融政策」の両輪を全力で稼働させました。
財政政策では、雇用を維持した従業員の給料を政府が肩代わりする「雇用維持給付金」(2週間で一律1500豪ドル=約12万2000円)と「失業手当の増額」(通常の失業手当+2週間で500豪ドル=約4万800円)を中心に、対策を次々と導入。
つまり、雇用を維持した従業員は働かなくても月24万円以上の現金を、失業した人も生活に十分な失業手当を受け取ることができました(ただし、失業手当の増額は2020年12月末、雇用維持給付金は2021年3月末にそれぞれ打ち切り)。
行政のデジタル化が進んでいるため、申請後はすぐに入金され、大半の国民は生活費に困りませんでした。むしろ、巣ごもり需要が伸び、オンラインショッピングや料理の宅配サービスの消費が急増する結果に。
また、金融政策では、中央銀行の「オーストラリア準備銀行」が2020年10月までに政策金利を0.1%まで引き下げ、実質ゼロ金利としました。お金を借りやすくすることで、経済の活性化を図ったのです。国債などの債権を市場から買い入れる量的緩和にも踏み切りました。つまり、お札をどんどん刷るのと同じ効果を狙い、マネーをじゃぶじゃぶと供給して景気を下支えしたのです。
こうした積極的な財政・金融政策のおかげで、2020年のオーストラリアの国内総生産(GDP)は-2.5%と先進国平均(-4.7%)を上回りました。当初は10%を超えると予想された失業率も7%をピークに低下し、先進国平均を大幅に下回りました。
金余り現象で“バブル”の兆しが 中央銀行に迫られる難しい舵取り
ただ、劇薬には副作用もあります。ゼロ金利と量的緩和で大量のマネーが市中にあふれたため、株価や不動産価格は高騰。「金余り現象」が資産価格を押し上げ、“バブル”の兆しも見え始めています。
直近の20年12月四半期の消費者物価指数も、前年の同じ期と比べて3.5%上昇。ゼロ金利下では、銀行に預けた1000万円のうち毎年35万円が失われることを意味します。
ゆるやかなインフレ(物価の上昇)は賃金上昇の好循環を生み出しますが、急激なインフレは景気を悪化させかねません。今後は金融引き締めによっていかに“悪いインフレ”を食い止めるか。中央銀行は難しい舵取りを迫られています。
(守屋 太郎)
守屋 太郎(もりや・たろう)
1993年に渡豪。シドニーの日本語新聞社「日豪プレス」で記者、編集主幹として、同国の政治経済や2000年シドニー五輪などを取材。2007年より現地調査会社「グローバル・プロモーションズ・オーストラリア」でマーケティング・ディレクター。市場調査や日本企業支援を手がける傍ら、ジャーナリストとして活動中。