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ブースター接種を事実上の“義務化” フランス国民が受け入れる背後にはお国柄が?

公開日:  /  更新日:

著者:小川 由紀子

ブースター接種率は順調に上昇 背景にある国民性

 ブースター接種に対する周囲の反応は実にさまざま。効果を信じて積極的に打つ人、3回目はさすがに嫌だけど仕事や社会生活のためにやむを得ず打つ人、絶対に打たないと決めている人……。毎週どこかで「強制的なワクチン接種」に反対するデモも行われています。

 ただ、周りの人たちを見回すと、ほとんどの人がすでにブースター接種を済ませている印象です。うだうだと先延ばしにしていた私も、ようやく先週打ってきました。

1回目のロックダウン時における「オペラ座」前の様子【写真:小川由紀子】
1回目のロックダウン時における「オペラ座」前の様子【写真:小川由紀子】

 フランスでは、2020年3月のパンデミック発生から昨年までの間に3回のロックダウン(都市封鎖)を実施。夜間の外出禁止、飲食店や商業施設の閉店といった味気ない日々が何か月も続きました。そのため、「もうそろそろうんざり、早く前の生活に戻そうよ。その手段がワクチンならしょうがないじゃん」という気持ちが、人々をブースター接種に向かわせているように思います。

 行きつけのカフェで新聞を読んだり、お馴染みさんとの世間話を日課にしていたり、夕暮れ時にはテラスでワインを1杯。そんな映画のワンシーンのような光景がリアルな日常にあるこの国で、カフェに行けない生活が何か月も続いたら……。「そちらの方がコロナよりも深刻な健康問題を巻き起こす」とまで言われています。

 また、夏と冬のバカンスのために日頃働いているような人が大勢いるこの国で、バカンスにも自由に行けない人生になったら……。冗談ではなく、精神的にダウンしてしまう人が続出しそうです。

 いったんはゴネたい元来の国民性からか、ワクチン接種の出足は鈍かったフランス。英国やドイツといった隣国に大きく出遅れていたものの、いったん進みだすとその後は案外順調でした。現在の「ワクチン接種完了」は79%。ブースター接種率も55%と、“押し付けられるが嫌い”なこの国にしては、意外なほど着々と進んでいます。

 また、実体験から感じるのは、フランスの医師は「痛みを我慢して苦痛を味わう時間を過ごすなんて無意味。薬で痛みをなくして快適に生活した方が良いに決まっている」という考えを持っている人が多いこと。「痛みに耐えてこそ」という精神論はなく、普段から国民の薬やワクチンに対する抵抗感は低いような気がします。

“Xデー作戦”の成功を信じるフランス国民

 もちろん、「カフェにもレストランにも行かないし、長距離電車に乗らなきゃいけなくなったら車の免許を取る」とまで言って、ブースター接種を拒んでいる人もいます。でも、それはどこの国にも当てはまることかもしれません。

 フランスでは、ちょうど2月に学校の冬休み、通称「スキー休暇」があります。そのタイミングも狙った政府の思惑通り、“Xデー”に向けてさらにブースター接種は進みそうです。

「打ったからにはもう我慢しないぞ!」という、コロナ禍がまるで収束したかのようなお気楽さにはちょっとした危機感も覚えます。それでも、ロックダウンの時に感じた「街に人がいなくてシーンとしていることの異様な恐怖と孤独感」はさすがに皆もう御免でしょう。

 今はとにかく、国民がこの半強制的な“Xデー作戦”が功を奏することを信じて、いつもの何気ない日常を取り戻そうとしているのでした。

(小川 由紀子)

小川 由紀子(おがわ・ゆきこ)

ブリティッシュロックに浸りたい一心で渡英。ロンドンで約8年暮らした後、隣の芝が青く見えてフランスへ。以来パリを拠点に、サッカーやバスケットボールなどスポーツの取材を中心に活動中。「ここはアフリカか!?」というようなディープなエリアに生息しつつ、遅咲きのジャズピアニストデビューを目指して鍵盤と格闘する毎日。