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ドイツが小4で大学進学を決断する理由 “勉強に対する適性”は早くも見える?

公開日:  /  更新日:

著者:中野 吉之伴

大学進学の選択は「勉強ができる」がすべてではない

 だからこそ「じゃあ、何で10歳になって一度線引きするんだ?」という疑問がやっぱり浮かびます。小学4年生になると“急に”大学進学の決断を迫られるドイツ。なぜ今でも10歳での進路選びを変えずに続けているのでしょう?

 僕には2人の息子がいて、それぞれ元気にギムナジウム(大学進学を前提とした中高一貫進学校)へ通っています。そのため、小学3年生になると息子たちの友達のご両親から細かいところまで何度も話を聞かせてもらいました。

 ギムナジウムに進学した途端、急にすべてが厳しくなり宿題やテストが増えて、成績も求められたという話を聞いて「(自分の子どもたちは)大丈夫?」と不安に駆られたのを今でも覚えています。

 小学校の担任の先生とも相談をして、最終的に子どもたちのギムナジウム進学を選択しました。その時に感じたのは、必ずしも「ギムナジウムへ通う=勉強ができる」という図式になっているわけではないのだなということです。

 息子の担任の先生から伺った話では、次の言葉が印象に残っています。

「学ぶことに積極的で、抵抗感少なく勉強と向き合うことができる」
「学ぶこと、知ることへの好奇心を持っていて、集中して勉強に取り組むことができる」

 つまり、ギムナジウムへの進学にはペーパーテストの点数だけではなく、普段の授業態度や勉強への自立した取り組み方など、すべてが考慮されているのです。

 だからペーパーテストの点数がすごく良いわけではなくても、「好奇心とともに集中して積極的に勉強へ取り組むことができる」適性のある子は、ギムナジウムへの進学を推薦されたりします。「将来的に専門知識を正しく論理的に身につけるための勉強に対する適性」は、小学校年代で多かれ少なかれ見えてくるというのが現場の声のようです。

 逆に「ペーパーテストの成績はいいけど、机の前に座って勉強をするのが本当に嫌い」という子だっていますし、学校の勉強よりも黙々と物を作ることや、音楽をするのが好きという子だっていますよね。そうした子はギムナジウムよりも別の進路へ進んだ方がいいのではないかという考えがドイツ社会では一般的で、理解できるものがあります。

進む進路選択の多様化 子どもたちが健全に成長できる教育環境とは

 ここ最近のドイツでは、「ギムナジウム進学への適性判断はもう少し後の方が良い」という声の高まりも。6年生相当の年代までは進路を確定させなくても大丈夫な「ゲザムトシューレ」(総合制学校)という形式も増えてきています。

 また、「ハウプトシューレ」(基幹学校)や「レアルシューレ」(実科学校)に進んだ子どもたちでも、成績が優秀で本人に適性があると判断された場合は、ギムナジウムに編入できるようになってきています。ただ、まだまだ部分的な対応にとどまっているので、今後どのように整理、修正していくかが注目されています。

 社会で生きていくために最低限身につけておくべき一般教養と、学ぶことの大切さや楽しさを知ること。そして苦手なこととも向きあう耐性は、誰にとっても大事になると考えられます。子どもたちが健全に成長できる教育環境を、時代に即した形で作り上げていきたいですね。

(中野 吉之伴)

中野 吉之伴(なかの・きちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。同国での指導歴は20年以上。「SCフライブルク」U-15(15歳以下)チームで研修を積み、さまざまな年代とカテゴリーで監督を務める。執筆では現場経験を生かした論理的分析を得意とし、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「世界王者ドイツの育成メソッドに学ぶ サッカー年代別トレーニングの教科書」(カンゼン刊)、「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする 自主性・向上心・思いやりを育み、子どもが伸びるメソッド」(ナツメ社刊)がある。ウェブマガジン「フッスバルラボ」主筆・運営。