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和久井映見が作品の質を上げる理由 『劇場版ラジエーションハウス』でも見せた柔軟さ
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16歳でスカウトされ芸能界入りした和久井映見さん。90年代は歌手として活躍する一方、数々の名作映画で映画賞を受賞し、さらにはCM出演でも話題を呼びました。51歳の現在は、物語のカギになる母親役などで作品の雰囲気をきゅっと引き締めています。しかし、そうした立ち位置は決して“狙った”ものではなく、徐々に形成されていったようです。数々の気付きを「走りながら見つけていくという柔軟さ」。見事に熟成された内面は、映画出演最新作『劇場版ラジエーションハウス』でも垣間見ることができます。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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16歳でデビュー 現在の母親役に続く道とは
その人の手柄として認識されるわけではないが、「この人がいるからこの仕事は一定以上のクオリティを持って完成した」と思うことがある。急にそれを実感したのは、テレビドラマ「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」(2019、2021・フジテレビ系)で放射線科の医師、大森を演じる和久井映見を見たからだ。
映画『さんかく窓の外側は夜』(2021)では三角康介(志尊淳)の霊が見えてしまうという特殊能力をこともなげに受け入れる母親を、大河ドラマ「青天を衝け」(2021・NHK)では渋沢栄一(吉沢亮)のビジネス思考に影響を与える母親を演じていた。どちらも登場シーンは多くないが重要な役であり、そのキャラクターの言動への説得力をもたらしていた。
現在、母親役が多い和久井は51歳。そんな彼女の約30年の俳優人生を振り返っておきたい。そんな気持ちになったのは、どんな瞬間にも“生きる”意義があると、和久井の演技や役の選び方が感じさせてくれたからだ。
和久井は16歳の時にデビューしている。オープンして3年目の東京ディズニーランドに行った高校生の和久井は、そこで以前の事務所のスタッフにスカウトされて芸能界に入った。芸能活動をしたいという希望が特になかった和久井は、モデルやキャンペーンガール、歌手とさまざまなことにチャレンジする。
しかし「こうなりたい」「これをするならこんなことを学べば役に立つ」など、今の若いタレントがさらっと口に出すような、考え抜かれた意欲は持っていなかった。