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和久井映見が作品の質を上げる理由 『劇場版ラジエーションハウス』でも見せた柔軟さ

著者:関口 裕子

ヒロインでなくなっても“演じる”ことを全うする意識

 その後の和久井を修飾するキャッチフレーズは「人気、実力ともにナンバー1」になった。この演技で和久井は日本アカデミー賞最優秀助演女優賞と新人俳優賞、キネマ旬報賞助演女優賞など多くの賞を受賞している。

 以降は、『エンジェル 僕の歌は君の歌』(1992)で織田裕二の元カノ役、松山善三監督の最後の演出映画となった『虹の橋』(1993)で薄幸なヒロイン千代役、尾瀬あきら原作のコミックのドラマ化「夏子の酒」(1994・フジテレビ系)、最高視聴率30.7%を記録したドラマ「妹よ」(1994・フジテレビ系)のヒロインと、ヒット作や話題作が目白押し。

 ロマンチックな映画『バースデイプレゼント』(1995)は、大ヒットした「妹よ」と同じ岸谷五朗との共演で話題となり、トレンディドラマも、文芸作品も演じることができる俳優として高く評価される。

 新しいフェーズに入ったと感じたのは、結婚と出産、離婚を経験した後辺りからだろうか。主演、ヒロインの役目から少し距離を取った役が増えた。豊川悦司が丹下左膳を演じた『丹下左膳 百万両の壺』(2004)の伝法な物言いをするお藤役、矢口史靖監督『ロボジー』(2012)での五十嵐信次郎(ミッキー・カーチス)の娘役は秀逸だったし、連続テレビ小説「ひよっこ」(2017・NHK)の向島電機女子寮の舎監役もハマり役だった。

(c)2022横幕智裕・モリタイシ/集英社・映画「ラジエーションハウス」製作委員会
(c)2022横幕智裕・モリタイシ/集英社・映画「ラジエーションハウス」製作委員会

 和久井のすごさは、作品の間が空こうが役の序列が下がろうが、同じ重量と変わらぬスタンスで“演じる”ことを全うしていることだ。これは演技者でなくても思い当たる悩みなのではないか。例えば、企業で役職定年を迎えて仕事の内容も立場も変わったとか。フリーの現場なら、声のかかる仕事の数が減ったなど。ちょっとした変化で自分の存在価値とは何か? と不安を感じるようになる。

 そんな不安を突き詰めても何の解決にもならない。和久井はそれに気付いたのだと思う。どんな状況であろうとも、私たちはその時その場所で生きている。良い時もあれば、納得がいかない時もある。でも生きているという事実は変わらない。

 若き日の和久井が気付いた「役とは日常の何でもないことの積み重ねの上に成り立つもの。自分をきちんと生きた延長線上にあるものなのだ」ということが、その下支えとなっているのではないか?。

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